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ISAC2019春季大会報告:2019.7.7「中小企業によるアジア共生の道を探る」法政大

  • 2019.7.7

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<国際アジア共同体学会・2019年春季大会活動報告>
「中小企業によるアジア共生の道探る」を主テーマに議論
 「米中貿易戦争と日本の進路」の問題も緊急討議

国際アジア共同体学会(ISAC)は日本ビジネスインテリジェンス協会、日本華人教授会議との共催で、「中小企業によるアジア共生の道を探る」をテーマに2019年春季大会を同年7月7日に法政大学で開催した。日本中国友好協会、国際善隣協会が後援した。
午前の部の第1部は、若手研究者の自由報告、第2部が一帯一路の現地報告、特別講演、そして午後の部は、第1部が記念講演、また第2部が今大会メインテーマの日本の中小企業による中国や東南アジアでの現地企業との共生をめざした取り組みの現状とその課題、第3部で研究開発を活発化させる中国の中小企業の新しい動きを報告。第4部は緊急テーマという形で「米中貿易戦争と日本の進路」を取り上げ、報告をもとに議論した。

若手研究者が途上国開発援助で自由報告
まず午前第1部は、法政大学の李端雪教授の司会で自由報告が行われた。
最初が専修大学経済学部大学院生の張陶偉鑫氏による「一帯一路構想と途上国開発援助に関する一考察」という報告。同氏は、途上国で最近、高速道路、鉄道など社会資本整備のインフラプロジェクトニーズが急速に高まり、新たに中国が主導するPPP(官民連携、PUBLIC PRIVATE PARTNERSHIP)をベースにした投資、貿易、援助の三位一体型の対外援助方式が定着し始めている、と指摘。

同氏は、中国一帯一路構想がこのPPP方式によって具体化しつつある点を評価したものの、一部の国で、その国の返済能力を超える中国の貸付によって「債務の罠」状態が生まれるなど批判が出ている問題を取り上げた。その批判に対応するため、中国の政府系金融機関による長期返済、低利の貸付に肩代わりしつつあること、プロジェクトの主導権も現地国政府に委ねられるなど、問題は改善されつつある、と述べた。

アジア中小企業がハイテクなどで多様な役割
自由報告2番目のスピーカーが急きょ、欠席となったため、黒瀬直宏国際アジア共同体学会新理事長が代わって登壇、今大会のテーマである日本の中小企業のアジアとの共生の重要性について、報告した。
黒瀬氏は、アジアにおける中小企業の多様な役割を指摘した。第1に労働集約的工業と輸出の担い手、第2にすそ野産業の担い手、第3に専門的加工業・専門的製品・ハイテクの担い手であり、今後の一帯一路プロジェクトでも、これら中小企業の活躍が期待されること、日本の中小企業もアジアの企業との共生が重要課題になる、と指摘した。

中国とラオス連携の鉄道建設現場報告
第2部は、范云涛亜細亜大学教授の司会のもと、慶応大の大西広教授が「中国・ラオス鉄道の現地調査から一帯一路の『債務の罠』の虚構を検証する」というテーマで現地調査報告を行った。
大西教授によると、中国のラオス国境からラオス国内の約490㌔を自動車などで走り回り、中国とラオス両国が連携して建設中の鉄道プロジェクトの現場を調査した。総額60億㌦にのぼる大型プロジェクトで、一帯一路計画にリンクする。ラオス側の資金負担7.3億㌦の一部に関して、中国側に融資を仰いでいるが、過大ではなく、「債務の罠」に陥るようなリスクはないこと、事業の採算性に関しては課題が残るものの、貨物と旅客、とくに観光客需要が見込める計画であることが明らかになった、という。
ただ、ラオス側が期待する現地雇用に関しては、単純労働以外の複雑な作業には意外にもベトナム人が数多くかかわり、ラオス人はその下で働くケースが見られた、と大西教授は語った。

三木清氏の技術哲学生かしアジア共生社会
午後の第1部は黒瀬理事長の司会のもと、専修大学名誉教授の内田弘氏が「アジア亀裂の歴史を振り返り、アジア共生社会を展望するーー近現代東アジア史と三木清の技術哲学」というテーマで記念講演を行った。
内田氏は、京都学派の哲学者、三木清氏がかつて太平洋戦争に至る治安維持法などの制約のもとで、東亜共同体論を展開し、日本の技術などを中国や当時の朝鮮の民族独立運動結合の考えを打ち出していたことを紹介、それを現代に置き換え、日本のみならず東アジアに民主主義と市民社会が形成される、といったアジア共生社会が実現できないか展望したい、という問題意識で講演した。

この内田氏の講演に対し、苑志佳立正大学教授が「専門外なのでコメントしにくい」としながらも「日本と東アジアとの共生にあたって課題が多い。とくに日本はかつて『脱亜入欧米』を打ち出しアジアと決別して独自発展した。その後、1985年のプラザ合意による米国などの日本たたきに対し日本が反発、新たに『脱米入亜』を志向しアジアの金融ネットワークづくりのためアジア通貨ファンドの宮沢構想をめざした。ところが、米国の構想つぶしに遭遇して日本が苦境に立ったこともある。そこで、東アジア共同体を阻止しようとするものが何なのか、見極めの議論が必要なのでないか」とコメントした。

日中分業生産で成功した中小企業事例
このあと、午後の第2部は「アジアと共生する日本の中小企業」というテーマに移り、株式会社グローバルハートの増田博美社長の司会のもと、中国で自動車用部品などに使うダイカストを生産する旭東ダイカストグループ会長の山森一男氏、ベトナムを中心にアジア人材の活用で日本とアジアの中小企業とで経営連携をはかるリード技研社長の小川登氏の両氏が、中国やアジアの企業との共生で成果を上げている現状をそれぞれ報告、日本企業にさらなる連携を呼びかけた。
とくに、山森氏は約30年間、中国の上海、寧波などで生産拠点をつくって設備投資を積極的に進める一方、日本で研究開発と高付加価値品の生産、中国では一貫生産による量産体制という、日中分業体制を確立した成功例を述べた。また山森氏は、高齢化に苦しむ中国で高齢者福祉事業はじめ町づくりにかかわり現地化に成功したことも紹介した。

中国の中小企業でオンリーワン技術の凄み
第3部は、日中間で弁護士交流を続けている法円坂法律事務所弁護士の稲田堅太郎氏の司会のもと、「革新する中国と日本の中小企業」というテーマで報告が行われた。
まず登壇した小樽商科大学の村松国教授は、中国の中小企業の中で、オンリーワンの技術に強みを持つニッチトップ型企業が急速に広がりを見せ、それら企業が今や2000社以上に及ぶなど研究開発への取り組みで凄みを見せつつある現状を報告した。
続いて清晌一郎関東学院大学名誉教授が「自動車産業のグローバル化を支える関連中小企業の海外進出」というテーマで報告、清氏はこの中で、成長センターのアジアでの自動車生産が拡大するのに伴い日系の関連中小企業の進出が増えていること、その際の課題は「深層現地調達化」、具体的には素材調達のみならず金型、機械、加工などの面で現地国のみならず周辺第3国の企業のうち技術力、品質管理力などのある企業を選び出し多層・多重・深層にわたって現地調達比率を引き上げることが必要になっている、と指摘した。

米中経済戦争で日本が関係改善橋渡しを
最後の部は、緊急討議テーマという形で、緊張が続く米中関係問題を取り上げた。まず東洋学園大学の朱建栄教授が「米中貿易戦争と日本の進路」と題して講演、今後の方向付けを行った。
朱教授は、現在の米中間の貿易戦争の本質がハイテク覇権争いにある、と位置づけ、今後考えられる3つのシナリオとして、米国の執拗な揺さぶりに対し日本がかつて貿易摩擦で屈したと同じように、中国が屈する「日本モデル」型か、あるいは予想外の大事件の勃発で休戦となる「9.11テロ事件」型か、中国が自助努力で米国に追いつき世界2大国状況となるG2体制へ進む型がある、とし現時点でどう展開するかは見えない、と述べた。このうちG2体制移行にあたっては、中国の政治の民主化、資本の自由化などの課題克服が避けられないだろうとも述べた。
その際、日本の役割に関しては、米中間の関係改善の橋渡しをすると同時に、日中韓FTA(自由貿易協定)の実現、さらには日本主導で中国をTPP(環太平洋経済連携協定)に加盟させ、新たに「CPTPP」という地域共同体づくりを進めることも重要課題だ、と述べた。

新理事長に黒瀬氏、事業計画も決め新年度入り
このあとISAC会長の進藤榮一氏が締めくくりのあいさつに立ち「米中間で経済戦争が深刻化しアジアのみならず世界に影響を及ぼしつつある。こうした時にこそ、日本は事態打開のためにどう対応すればいいかを考えると同時に、一帯一路問題で欧州諸国と連携をはかる、といったことも重要だ」と語った。
なお、ISACはこの日、理事会を開催、新理事長に黒瀬氏、新理事を互選したあと、事業計画も決め、総会の承認を得て新2019年度入りした。
(文責・前理事 牧野義司)


国際アジア共同体学会2019春季大会
「中小企業によるアジア共生の道を探る―アジアの亀裂100年振り返りつつ
●日 時:2019年7月7日(日)10:00
●会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス外濠校舎4階S406教室
●主 催:国際アジア共同体学会
●共 催:日本ビジネスインテリジェンス協会・日本華人教授会議
●後 援:日本中国友好協会・国際善隣協会(申請中)
●参加費(資料代):会員・関係機関500円/一般1,000円
●懇親会参加費:3,500円(麒麟宴:千代田区九段南3-5-7 エミナンス九段1F(会場から徒歩5分)

プログラムpdfは こちら


午前の部:Ⅰー自由報告 10:00〜10:45
司会:李瑞雪(法政大学教授)
・「一帯一路」構想と途上国開発援助に関する一考察」張陶偉鑫(専修大学経済学部大学院生)
・「リモートセンシング技術を用いたアジア地域における都市環境戦略に関する研究」 朝格吉拉図(筑波大学環境学博士、アジア連合大学院機構ジュニアフェロー)

午前の部:Ⅱー一帯一路現地報告 10:45〜11:15
司会:範雲涛(亜細亜大学教授)
「中・ラオス鉄道の現地調査から―一帯一路「債務の罠」論の虚構を検証する」大西広(慶応義塾大学教授)


午後の部

I.記念講演 13:00~13:50
司会:大西広(慶応義塾大学経済学部教授)
「アジア亀裂の歴史を振り返り、アジア共生社会を展望する~近現代東アジア史と三木清の技術哲学」:内田弘(専修大学名誉教授)
<コメンテーター>苑志佳(立正大学教授)、柳赫秀(横浜国立大学教授)

II.アジアと共生する日本の中小企業 13:50~14:50
司会:増田博美(株式会社グローバルハート代表取締役)
1. 「日中分業体制の構築から民間文化交流の推進へ」:山森一男(旭東ダイカストグループ会長、日中 技能 者交流センター理事)
2. 「アジア人材の活用で経営発展とアジア工業化を同時推進」:小川登(リード技研社長)

III.海外進出する日本の中小企業 14:50~15:50
司会:稲田堅太郎(法円坂法律事務所弁護士)
1. 「研究開発を活発化する中国の中小企業」:林松国(小樽商科大学商学部商学科教授)
2. 「自動車産業のグローバル化を支える関連中小企業の海外進出」:清晌一郎(関東学院大学名誉教授)

IV.緊急テーマ・米中経済摩擦と一帯一路 15:50~16:50
司会:兼村智也(松本大学教授)
1. 「米中貿易戦争と日本の進路」:朱建榮(東洋学園大学教授)
<コメンテーター>萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授)、朱炎(拓殖大学教授)

総括 16:50~17:00
「中小企業によるアジア共生の道を探る」:進藤榮一(学会会長)