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ISAC春季大会報告「日中韓サミット後の一帯一路と日本の戦略」6.24@専大

ISAC180624

国際アジア共同体学会・2018春季大会・日中友好平和条約締結40周年・ASEAN結成51周年記念国際会議
「日中韓サミット後の一帯一路と日本の戦略」
●日 時:2018年6月24日(日)9:30
●会 場:専修大学神田校舎7号館3階731教室
●主 催:国際アジア共同体学会
●共 催:一帯一路日本研究センター、GAIA機構
●後 援:日本華人教授会議、日本ビジネスインテリジェンス協会、日中友好協会、国際貿易投資研究所
●参加費(資料代):会員500円/関係機関会員1,000円/一般2,000円
●懇親会参加費:3,500円(王家私菜神保町本店、会場から徒歩2分)

プログラムpdfは こちら
報告書は下記 <ISAC2018春季大会活動報告> ご参照


第一部:自由報告若手部会・歴史文化部会
Ⅰ:自由報告若手研究者部会(9:30~10:20)
●岩木秀樹(創価大学非常勤講師)「イスラームにおける弱者救済とテロの低減化」
●劉鵬(広東海洋大学経済学部講師)「中国農業銀行のブルー‧オーシャン戦略について」
●朝格吉拉図(筑波大学環境学博士、GAIA機構研究員)「モンゴル砂漠緑化に見る中日の技術協力」
Ⅱ:歴史文化部会(10:20~11:00)
●村石恵照(武蔵野大学客員教授)「シルクロードとアジア文化の道」
●井上良一(ソウル宣言の会事務局)「日韓交流から見た韓国社会の変貌」

第二部:岡倉天心受賞記念特別講演:「21世紀グローバル化と日中米関係」
司会大西広(慶応義塾大学経済学部教授)
●坂本雅子(名古屋学院大学名誉教授)「空洞化と属国化を超えて」
●矢吹晋(横浜市立大学名誉教授)「習近平の中国はどこに行くか」

** ISAC理事会(7号館8階)・総会(7号館3階731教室) **

第三部:「日中韓サミット後のASEANと東アジア」
司会:岩内秀徳(富山大学経済学部教授)
●唱新 (福井県立大学経済学部教授)「ASEANと中印関係―新アジアトライアングルへ」
●椎野幸平(拓殖大学国際関係学部教授)「ASEANとメガFTA」

第四部:「日中韓サミット後の一帯一路構想と東アジア」
司会:周瑋生(立命館大学政策科学部教授)
●渡邉啓貴(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)「第三の一帯一路:氷上シルクロードと日本」
●徐一睿(専修大学経済学部准教授)「ユーラシア輸送インフラと日中協力の道」
●朱永浩(福島大学経済経営学類准教授)「一帯一路と北東アジア物流」

第五部:パネル討論「グローバル・シフトと勃興アジアと朝鮮半島」
司会:萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授)
●報告討論:櫻川昌哉(慶応義塾大学経済学部教授)「グローバル化と日米中の政治秩序の変化」
●木村朗(鹿児島大学法文学部教授)「朝鮮半島和解のダイナミズム」
● 井川紀道(東洋学園大学客員教授、元MIGA長官)「一帯一路のガバナンス問題とアジア投資銀(AIIB)を考える」

総括:進藤榮一(筑波大学名誉教授、学会会長)


<ISAC2018春季大会活動報告>
「日中韓サミット後の一帯一路と日本の戦略」をめぐって2018春季大会が専修大学731教室で開催

国際アジア共同体学会(ISAC)は、一帯一路日本研究センター、一般社団法人アジア連合大学院機構との共催で「日中韓サミット後の一帯一路と日本の戦略」というテーマで、2018年6月24日に「2018春季大会」を専修大学神田校舎で開催した。
今回の大会は、日中友好平和条約締結40周年、またASEAN結成51周年を記念した国際会議と銘打ち、日中韓サミット後の東アジアのさまざまな課題の1つともなる一帯一路問題に関連して日本の取り組み戦略をどう考えるべきかなどの問題をテーマにした。

プログラムは、第1部が自由報告若手部会・歴史文化部会、第2部が岡倉天心受賞記念特別講演:「21世紀グローバル化と日中米関係」、このあと第3部、第4部がメインテーマで、このうち第3部「日中韓サミット後のASEANと東アジア」、第4部「日中韓サミット後の一帯一路構想と東アジア」、そして最後が「グローバル・シフトと勃興アジアと朝鮮半島」という構成になっている。

若手教授らが「中国農業銀行のオーシャンブルー戦略」などに関して自由報告
第1部、第2部は朽木昭文日本大学教授、当学会理事長の司会のもとに発表が行われた。
まず第1部前半は自由報告という形で若手部会の岩木秀樹氏(創価大学非常勤講師)が「イスラームにおける弱者救済とテロの低減化」、劉鵬氏(広東海洋大学経済学部講師)が「中国農業銀行のブルー・オーシャン戦略」、朝格吉拉図氏(筑波大学環境学博士、GAIA研究員)が「中国内モンゴル砂漠化緑化による日中の環境分野の協力」をテーマに発表した。

このうち、岩木氏は、中東地域を中心に紛争やテロが頻発している問題に関して、貧困や格差が生み出していること、イスラーム教が戦争と暴力の宗教と見られてしまっていることなどが背景にあることは否定できない。ただ、イスラームには喜捨による富の再分配があること、とくに喜捨の中には所有する財産に課せられる義務的なザカートと自発的なサダカの2つがあり、中でもザカートが貧困格差の是正に役割を果たし、一種のソーシャル・キャピタルとしての機能を果たし、テロや紛争を防いでいる側面もある、と述べた。

劉鵬氏は、中国の農業銀行が中国政府の農村金融政策の主旨に沿い、ブルー・オーシャン戦略を実施する主体として三農金融事業部を設立して事業展開している点を評価できるものの、課題も多いと指摘した。具体的には農村・農業・農民の中国の三農問題に関して農業銀行はそれらに横たわる問題の解決のため、三農金融事業部を通じて対応しているが、現実問題として、農業大手企業や農産物流通企業、大型商業施設などの法人顧客を重視し農家や農民向けの少額融資に力を入れていない問題が出ていることを指摘した。

朝格吉拉図氏は、中国内モンゴル内の砂漠化や土地の荒廃が進んでいることを問題視、さまざまなデータをもとに土地利用計画や植林計画を進めて緑化を図ると同時に、日中の環境分野の協力がますます重要な課題になっている、と述べた。

歴史文化部会の学者が「シルクロードとアジア文化の道」などを報告
続く第1部後半は、歴史文化部会の村石恵照氏(武蔵野大学客員教授)が「シルクロードとアジア文化の道」、また井上良一氏(ソウル宣言の会事務局)が「日韓交流から見た韓国社会の変貌」をテーマに報告した。
村石氏は、世界の4大文明のうち中華文明が数々の中国国内の問題を克服し世界的な文明の地位を確立しつつある。それを裏付けるのが、中国主導で展開するシルクロードをベースにした一帯一路プロジェクトだ、としながらも、文化面で今後、文化摩擦が予想される、とし、かつて岡倉天心も指摘した道教、仏教、儒教の3つを軸に精神文化の再興も必要だ、と述べた。

また、井上氏は、日韓交流から見た韓国社会の変貌ぶりを取り上げてみたいとし、ソウル市社会的経済基本条例の問題を紹介した。井上氏によると、その条例は、米国などの新自由主義に対抗するもので、社会の構成員の共同の人生の質と福祉水準の向上、社会安全網の回復など社会的経済と市場経済、公共経済の調和を作り上げるために社会的な経済組織、それにリンクする企業の育成を促すことを狙っている。日本としても、この基本条例に学ぶことが多いと考える、と指摘した。

坂本氏、矢吹氏が岡倉天心賞受賞記念で「21世紀グローバル化と日中関係」講演
これに続いて第2部では大西広氏(慶応義塾大学教授)の司会のもと、岡倉天心賞受賞記念特別講演で、「21世紀グローバル化と日中米関係」をテーマに、坂本雅子氏(名古屋学院大学名誉教授)と矢吹晋氏(横浜市立大学名誉教授)の2人の受賞者が講演した。

このうち、坂本氏は「空洞化と属国化を超えて」というテーマで、グローバル化と新自由主義化はいま転換期を迎えていることを指摘、中でも日本は企業が生産の海外移転を進めたことで経済の空洞化問題をもたらし、投資受け入れ国の中国の経済急成長に関して日本はその中国ばかりかアジアの成長も取り込めずに空洞化が深刻になった、しかも米国のアジア回帰戦略と軍事面で日本を新属国化した。とくに新属国化は大多数の日本企業の利益に反したばかりか国民の最良の財産や平和までを脅かす状況になった、と指摘。そこで、坂本氏は「日本はこうした動きに対峙し、諸国民と連携して新自由主義の企業王国化策を転換して資本主義の再生を図ることが重要だ」と述べた。

また、矢吹氏は「習近平の中国はどこに行くか」というテーマで講演した。この中で、矢吹氏は、中国で急速に進むデジタル社会化の問題を取り上げ、中国当局もIT企業が主導するニューエコノミーの動きを容認し、経済運営にも自信を示している。しかし中国の経済社会の現実は、デジタル化が行き過ぎてしまい、電脳社会主義、管理社会化が進んでいる。ユートピア政府になるのか、その反対のデストピア政府になるのか、日本としても、その動向の見極めが重要だ、と指摘した。

第3部は「日中韓サミット後のASEANと東アジア」で唱新氏、椎野氏が講演
これらに続く第3部、第4部が今回の大会のメインで、林敏潔氏(南京師範大学教授)が総合司会を行った。第3部は、岩内秀徳氏(富山大学教授)を司会役にして「日中韓サミット後のASEANと東アジア」のテーマのもと、唱新氏(福井県立大学教授)が「ASEANと中印関係――新アジア・トライアングルへ」、また椎野幸平氏(拓殖大学教授)が「ASEANとメガFTA」で講演した。

唱新氏は、中印関係がこれまでの国境問題などに端を発した関係悪化から一転、アジアの経済成長をけん引する中国・インド・ASEANの新興国トライアングルという形でアジアの新しい世紀を生み出しつつある、と述べた。その際、唱新氏は今後の課題として、インド・ASEAN間インフラ整備の資金確保の問題、インドの慢性的な貿易赤字、とくにインドの対中国貿易赤字の克服ができるかどうかの問題、さらにインド政府が進める「メイク・イン・インディア」政策、とくに製造業の振興の動向、そして中国やインドなどが加盟するメガFTAのRCEPが今後どうなるかなどにかかっている、と述べた。

椎野氏は、ASEANがこれまでに構築したFTAネットワーク、ASEANが関与するメガFTA,カギを握るサービス自由化交渉、とくに電子商取引の動向とルール形成問題に関して、現状と課題を説明した。それらを踏まえて、椎野氏は、東南アジアでのこれまでのFTAでは一定の貿易創出効果が出ていてタイが恩恵を得ていること、今後のFTAではベトナムの通商政策が活発化し新たなけん引役になること、サービス自由化交渉、電子商取引のルール形成が今後、重要になること、TTPとRCEPは補完的であり、うまくすれば両輪の役割を果たすことでアジア経済全体にプラス効果が大きくなる可能性もある、と述べた。

第4部「日中韓サミット後の一帯一路構想と東アジア」で徐氏ら3氏が問題提起講演
第4部は、周璋生氏(立命館大学教授)が司会役となり、渡邉啓貴氏(東京外語大学大学院教授)が「第3の一帯一路:氷上シルクロードと日本」、また徐一睿氏(専修大学准教授)が「地域公共財の視点から見る一帯一路とインフラ投資」、朱永浩氏(福島大学准教授)が「一帯一路と北東アジア物流」の問題でそれぞれ講演した。

まず、渡邉氏は、中国当局が陸と海のシルクロードに続く第3のシルクロードという形で展開しつつある北極海航路の問題を取り上げた。渡邉氏自身は、中国から北極海を抜けてロシア、欧州に至るユーラシアという視点で取り上げ「ユーラシアをめぐる問題は、国際社会に新たなパワーシフトをもたらしつつある。米国の影響力の後退と相まって欧州、ロシア、中国をつなぐユーラシアパワーが台頭し、とくに北極海航路の登場で地政学的な意味合いが変容しつつある。この点にしっかりとした問題意識を持つことが重要になってきた」と述べた。

徐氏の「地域公共財の視点から見た一帯一路」問題で活発な議論交流も
続く徐氏は、アジアを中心にインフラ投資問題が大きなテーマになり、そこへ一帯一路問題が登場して、地域公共財の視点から一帯一路とインフラ投資の問題を見ることが重要だと問題提起した。そして徐氏は、中国の王毅外交部長が2015年3月、「一帯一路構想は、中国が世界に対する公共財を提供し各国、あるいは国際組織、グローバル企業、金融機関とNGOなどの組織が参与してほしい」と発言し、多国間協力による地域公共財の枠組みが必要不可欠とした点が今後、重要になってくる、と指摘した。

朱氏は、一帯一路の陸のシルクロードともいえる中国から欧州への南回りのコンテナ海上輸送の代替ルートとして登場したチャイナ・ランドブリッジ(CLB)、端的には天津港、青島港などをスタート地点にして新疆、中央アジア、ロシアを経由して欧州まで行く鉄道輸送ルートに新展開があり注目すべきだ、という問題提起を行った。朱氏によると、このCLBプロジェクトによって、北東アジア、中央アジアの経済連携が進み、それら地域でのインフラ整備が新たな経済成長の呼び水になりつつあること、とくに国際物流がインフラに厚みをもたらしつつあるので注目すべきだ、と述べた。

この3氏の講演後の質疑で、会場から徐氏の問題提起した地域公共財の視点から一帯一路とインフラ投資の問題を考えるべきだ、という点に関して、「海のシルクロードのスリランカなどの港湾施設でのプロジェクトに関して、中国政府は巨額の資金を貸し込んで返済が難しくなったことを理由に100年近い港湾管理権を取得して、事実上、独占使用している。地域公共財として、誰もが活用できるという話と食い違うのでないか」といった問題提起が出され、議論が進んだ。

最後の第5部「グローバル・シフトと勃興アジアと朝鮮半島」で櫻川氏ら3氏が講演
最後の第5部は、「グローバル・シフトと勃興アジアと朝鮮半島」というテーマで、萩原伸次郎氏(横浜国立大学名誉教授)の司会のもと、櫻川昌哉氏(慶応義塾大学教授)が「グローバル化と日米中の政治秩序の変化」、木村朗氏(鹿児島大学教授)が「朝鮮半島和解のダイナミズム」、井川紀道氏(東洋学園大学客員教授、MIGA元長官)が「一帯一路のガバナンス問題とアジア投資銀行(AIIB)を考える」に関して、それぞれ講演した。

櫻川氏は「2010年のリーマンショックは、国際経済的に見て、米国を中心にしたグローバル世界の枠組みに大きな変化を生じさせ、経済の重心がアジアにシフトした。しかし米国だけが国際公共財を提供することには限界が出てきているが、では中国が米国にとって代われるか、というと、なかなかそこまでは行っていない。中国を含めたアジアという世界の成長センターにとってはまだまだ課題が残っている」と問題提起した。

また木村氏は、朝鮮半島和解のダイナミズム問題に関して「今回の大会直前に行われたシンガポールでの米朝首脳会談は、一時、開催が危ぶまれるほどだったが、結果は、朝鮮半島の非核化問題に踏み出せた。私自身は、朝鮮戦争の終結を最大テーマにすべきだったと思っているが、全体としては大成功だったのでないか」と評価した。ただ、木村氏は、日本が首脳会談の橋渡しの役割を果たすべきだったのに、拉致問題を口実に、対北朝鮮問題では強硬派に終始したのは残念だった、とも述べた。

井川氏は、一帯一路プロジェクトのガバナンス問題とそれにリンクするAIIBの問題に関して「日本では、AIIB問題はさまざまな課題を抱える、といった形で一種の思考停止状態に陥ったままだ。設立当初よりも事態が大きく変わってきて、世界の3大格付け機関がトリプルA評価を下し、またOECDやDACといった国際機関もODA適格機関として承認するなど国際的にも評価対象になってきているのにUPDATEされていない。一帯一路のガバナンスに関して、駐北京のEU大使が連名でプロジェクトの国際入札手続きに問題があると改善を求める署名を行い中国政府に送ったのは事実だが、ガバナンスも国際機関のチェックを受けて改善が期待される、と考えたい」と述べた。

進藤大会会長が「常識にとらわれず新たな変化を探ることが重要」と大会総括
最後に、進藤榮一国際アジア共同体学会会長が、大会総括という形であいさつに立ち、次のように締めくくった。
「今回大会では、日本にとっても今後、戦略的な取り組み課題となる一帯一路の問題に関して、立場の異なる方も含めいろいろな方々が意見を出し課題は何かといった形で議論したことは素晴らしい。英エコノミスト誌元編集長のビル・エモット氏が『常識の背後に真理がある』と語っていた。これからの世界は、新興国が台頭してきて世界の秩序づくりなどが大逆転する可能性を秘めてきたが、一方で、いまだに20世紀の古い常識がはびこっているのも事実。エモット氏が指摘するように、常識にとらわれず新たな変化を探ることが必要だ」                  (文責・理事牧野義司)

大会後、近郊中華レストランにて懇親交流会を開催、45名ほどが参加した。

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