学会活動報告「東アジア環境・エネルギー・食料共同体をつくる」2017.9.30(於立教大学)
  • 2017.11.24

国際アジア共同体学会(ISAC)は、「東アジア環境・エネルギー・食料共同体をつくる」というテーマで2017年9月30日に「2017秋季大会」を立教大学池袋キャンパスで開催した。

 今回の大会は、学会メンバーが中心になってまとめた共同著作「東アジア連携の道をひらく――脱炭素社会・エネルギー・食料」(花伝社刊)の出版を記念してのシンポジウムを兼ねたのが大きな特徴。プログラムは、第1部が基調講演、続いて第2部がメインテーマで、著作にかかわったメンバーによる「アジア脱炭素・エネルギー・食料共同体をどうつくるか」というテーマでのパネルディスカッション、そして第3部が「RCEP(東アジア地域包括的経済協定)からアジア地域統合へ」をテーマにしたパネルディスカッションという構成だった。

「一帯一路」「アジアスーパーグリッド構想」「脱炭素社会化」で専門家が基調講演

 まず第1部の基調講演は松下和夫氏(京都大学名誉教授)を司会役に、江原規由氏(国際貿易投資研究所チーフエコノミスト、元ジェトロ北京所長)が「一帯一路と新型国際関係の構築」、大林ミカ氏(自然エネルギー財団事務局長)が「自然エネルギーでアジアをつなぐ:アジアスーパーグリッド構想」、桃井貴子氏(気候ネットワーク事務所長)が「日中韓・東アジア気候フォーラムと日本の政策課題」に関して、それぞれ講演した。

 このうち、江原氏は中国が進める一帯一路プロジェクトに関して、「インフラプロジェクトを軸に国際公共財として位置づけ、世界各国が参加する枠組みづくりを中国が主導しようとしているが、国際ガバナンスに結び付けられるかがカギだ」と述べた。

 大林氏は、自然エネルギー財団が進めるアジア各地の風力や太陽光などを相互に活用し合う国際送電網「アジアスーパーグリッド」構想に関して「通信の世界が国際的につながってきているのだから送電の世界でも同じように国や地域を越えた国際連携が必要だ。経済合理性も十分にある。日本が島国だから無縁だ、という発想は許されない」と述べた。

 桃井氏は、日中韓3か国のCO2(二酸化炭素)の排出量が世界全体の3割強の比重を持っているため、その排出削減に大きな責任を果たすべきだ、という立場から2010年に3か国の市民レベルで「東アジア気候ネットワーク」を組織して活動していることを明らかにしたあと、日本の取り組むべき課題が多いことを指摘した。具体的にはCO2排出の原因となっている石炭火力発電所の新増設を止める政策を打ち出すこと、脱炭素社会実現をめざすパリ協定に対応するためエネルギー政策の抜本的転換が必要などを強調した。

 共同著作「東アジア連携の道をひらく」執筆メンバーがパネルディスカッション

 これに続く第2部のパネルディスカッションでは朽木昭文ISAC理事長(日本大学教授)

司会のもと、共同著作「東アジア連携の道をひらく――脱炭素社会・エネルギー・食料」の執筆メンバーの山尾政博氏(広島大学教授)、李志東氏(長岡技術科学大学教授)、明日香寿川氏(東北大学教授)、周璋生氏(立命館大学教授)、伊藤雅一氏(名古屋産業大学教授)、関正雄氏(明治大学准教授)の6氏がそれぞれ研究報告を発表、それを踏まえてパネルディスカッションを行った。そして安田英土氏(江戸川大学教授)がコメンテーターとして今後の課題などに関してコメントした。

 司会役の朽木理事長が口火を切る形で「アジアの農業・文化を起点としたバリューチェーン共同体の形成を提唱したい」と述べた。それに関連して「関税の撤廃」「モノ・サービス・カネ・ヒトの移動の自由化」「市場競争・規制のルール化」「サプライチェーン形成」、「バリューチェーン形成」の5段階によるアジア地域統合が重要と問題提起した。

 これを受けて山尾氏は、東アジアの水産業共同体の形成が今後、重要になってくると指摘。とくに中国や東南アジアでは水産加工業の拠点化が進み、最近は米国やEUへの水産加工品の輸出にあたってEUなどの厳しい安全管理要求に対応するための能力や態勢づくりが出来てきて水産業共同体の基盤が出来つつある、と述べた。

低炭素共同体で「人類運命共同体」発言の習近平中国国家主席の本気度に注目

 李志東氏は、中国の一帯一路のインフラ建設プロジェクトを低炭素・エネルギー共同体構築に向けた取り組みにリンクさせれば共同体も夢ではない、と指摘。とくに日中韓3か国は共同体形成の突破口として北東アジア送配電網事業を後押しすべきだ、と指摘した。

 環境問題専門家の明日香氏は、「パリ協定の実施に向け、各国が石炭火力発電依存からの脱却が重要だ」と述べた。その際、最近、石炭火力発電の比重が大きい中国に脱却に向けた変化の兆しがみられるのは好ましい動き、としながらも、中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)などのプロジェクトがらみで石炭火力発電支援を抑制することができるかどうか、端的には哲学を持った大国になれるかどうかがポイントになると指摘した。

 周璋生氏も東アジア低炭素共同体づくりが今後の重要課題だ、と述べた。この共同体がもし実現すれば一石二鳥どころか「一石多鳥」の波及効果が見込めるとし、その具体化の1つとして東アジア排出量取引制度の創設が有効だ、と述べた。また、習近平中国国家主席がある演説で「人類運命共同体」という表現を使ったことを取り上げ、中国の本気度も重要になる、と指摘した。

 伊藤氏は、生活環境圏のCO2濃度に着目し地域のCO2濃度調査にもとづく環境教育の重要性を指摘した。それに関連して現在、アジアCO2グリッド構想の具体化に取り組む一方で、多様な主体の環境意識を高めて「新しい公共」ということを実現するため自治体と連携が必要、と述べた。

 関氏も「脱炭素社会実現に向けた企業のグローバル戦略」というテーマで問題提起した。そのポイントは、企業が長期的な視点で社会の大変革に戦略的に取り組むようになってきたが、何をなすべきかの段階から一歩踏み込んで目標設定を行い、同時にその実現に向けてさまざまな取り組みが一段と重要になっている、と指摘した。 

第3部は「RCEPからアジア地域統合へ」をテーマに問題提起と討議

 第3部のパネルディスカッションは「RCEPからアジア地域統合へ」というテーマで議論した。郭洋春氏(立教大学教授)を司会役に、作山功氏(明治大学准教授)、石田信隆氏(農林中金総合研究所客員研究員)、金堅敏氏(富士通総研主任研究員)、後藤康浩氏(亜細亜大学教授)、唱新氏(福井県立大学教授)、内田聖子氏(NPOアジア太平洋資料センター・PARC共同代表)の6氏が議論参加した。また鈴木隆氏(名古屋学院大学教授)がコメンテーターとして加わった。 

 司会の郭洋春氏がまず最初に、「FTA(自由貿易協定)から多国間地域協力へ」というテーマで、トランプ米政権の登場によって自由貿易体制をベースにした国際的協調主義の枠組みが揺らぎ始めていること、そこで米国による保護貿易主義的な通商政策を押しとどめるにはRCEPなどのアジアを中心とした多国間地域協力体制を構築する必要がある、と問題提起した。

 これを受けて農林水産省時代にTPP(アジア太平洋経済連携協定)交渉にかかわった作山氏は、米国離脱によって先行き不透明だったTPPが日本など主要国の努力で米国抜きの11か国によるスタートの動きもあることを紹介、それを教訓にRCEP実現への道筋づくりが必要だと強調した。その際、TPPとRCEPは対立概念ではないので、日本や中国が主導してASEAN(東南アジア諸国連合)10か国を巻き込んでRCEP実現をめざすべきだと強調した。

 石田氏は、米トランプ政権の保護貿易主義的な動きに関して、米国が追求しているのは米国発の新たなグローバル資本の覇権で、今後の各国間での経済連携は公正かつ全体最適の国際的な枠組みづくりが求められる、と述べた。

TPPとRCEPは対立概念でない、日中連携でRCEP実現し地域統合への布石論も

 続いて金堅敏氏は「RCEPを介した日中協力とアジア市場統合の推進を」というテーマで問題提起した。具体的には、作山氏と同様、TPPとRCEPは対立概念ではないとしたうえでRCEP自体、中国が提唱したように見られているが、実は日本がもともと主張していたものであること、この際、日本が中国とうまく連携してRCEPを実現しアジア市場統合への布石とすべきだ、と述べた。

 後藤氏は、アジアの市場統合などさまざまな問題を考えるにあたって、まずは日中両国の連携がカギを握るとし、その連携の「実」を挙げる問題として、両国間で問題解決に至っていない東シナ海ガス田開発の再生に関して、双方で再生に向けた取り組みが必要だと述べた。具体的には東シナ海での日中共同管理による「中立化」を実験的に進め、しかもそれをモデル化し将来的に南シナ海問題の解決に応用することが考えられる、と述べた。

 また唱新氏は、「東アジア農林水産物・食品貿易と中日農産品貿易の課題」と題して述べたが、その主張ポイントは、中日両国が主導してアジアの食料共同体つくることがアジア全体のプラスにつながる、という点だった。

 最後のパネリスト、内田氏はRCEPにおける「知的財産権」条項の問題を取り上げた。具体的には特許切れ前の薬を別の病気に対する医薬品として特許を取ることで、永続的に医薬品の特許が取り続けられる特許保護強化の仕組みがあるので、日本や韓国はRCEPでTTP水準の薬品保護強化を提案することが重要だ、と述べた。

 進藤大会会長が「脱炭素社会など実現に向け国境越えた連携が重要」と大会総括

最後に、進藤榮一国際アジア共同体学会会長が、大会総括という形であいさつに立ち、次のように締めくくった。

「今回の秋季大会では、共同体は何なのか、なぜ必要なのかを互いに認識することができた。とくに脱炭素社会実現のためには個別の国々が利害を越えて、連携が必要だ。国境を越えた連携がますます重要になっている。私たちはそれを模索し続けることが重要と感じた」と。                          以上(文責・理事牧野義司)

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