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2018年次大会報告「一帯一路構想からユーラシア新世紀への道」・出版記念シンポ

海外調査成果まとめた出版記念シンポジウムで米中貿易戦争を論議

国際アジア共同体学会(ISAC)は一帯一路日本研究センター、日本華人教授会議、明治大学国際武器移転史研究所、韓国人研究者フォーラムとの共催のもと「一帯一路からユーラシア新世紀の道」というテーマで、2018年次大会を同年12月16日に明治大学グローバルフロントで開催した。毎日新聞社、日本中国友好協会、日本評論社が後援した。
一帯一路日本研究センターの研究者らが2018年9月に中国の一帯一路問題にからむ地域を現地調査、その成果を日本評論社から大会テーマと同じタイトルの書物にしている。そこで、この大会は出版記念シンポジウムを兼ねることにしたのが大きな特徴。また、大会で第6回岡倉天心賞を発表、受賞者はそれを受けて記念講演を行った。
プログラムは、午前の部では第1部が恒例の若手研究者の自由報告、続いて第2部が岡倉天心賞の発表、受賞者による特別講演、このあと第3部が一帯一路日本研究センター訪中団の現地調査報告、第4部が記念講演、また午後の部は、第1部が出版記念シンポジウムとして「米中貿易戦争と一帯一路構想の新展開」というテーマのもとにパネルディスカッション、そしてフィナーレを飾る形で第2部に記念講演を行う、という段取りだった。

若手教授らが「一帯一路は機会か脅威か」などに関して自由報告
まず、午前の部の第1部は宮脇昇立命館大学教授(学会副理事長)の司会のもと発表が行われた。登壇者は4人で、いずれも自由報告。最初が朝格吉拉図筑波大学環境学博士で、「北東アジアにおける呼倫湖周辺域における日中水環境協力の重要性」を報告、続いて謝志海共愛学園前橋国際大学准教授が「一帯一路は機会か脅威か:関係各国の反応を中心に」、王春民中国蘭台法律事務所弁護士が「一帯一路における中日合作の法的考察」、最後の鈴木賢一政党事務局部長が「歴史的な南北・米朝首脳会談と韓国ハイレベル外交力」というテーマでそれぞれ報告した。
●朝格吉拉図氏は、衛星リモートセンシング技術を用いて中国の内モンゴルにある呼倫湖周辺域の土地や水などの環境変化を調査していること、湖の水位が減ると同時に、水面積も大きく減少していると報告したあと、環境問題には国境がなく、この地域での環境協力に取り組む日中だけでなくロシアなど関係各国の連携が必要だ、と強調した。
●謝志海氏が、中国主導で進める一帯一路プロジェクトを地政学理論とからめながらプロジェクトの国際的な位置づけを整理、具体的には中国が主張する国際公共財との位置づけでプロジェクト関係国に恩恵を与え「機会提供」となっているか、あるいは関係国にとって「脅威」となっているかがポイントになってくる、と述べた。その際、中国は、新興国のインフラ整備ニーズに対応し、国際公共財の提供という観点からプロジェクト展開していくだろうが、ロシアがこれに刺激され「大ユーラシアパートナーシップ」構想を打ち出し、インドも東進戦略を展開し中国の西進戦略とぶつかりかねないなどの問題を抱えている。研究者として今後の展開が大きな関心事だ、と結んだ。
●王春民弁護士は一帯一路の紛争リスクに備え法治システムづくりを主張。王春民氏は、弁護士の立場で、中国が展開する一帯一路プロジェクトの今後を見た場合、関係国間で利害が分かれて紛争に発展しかねないケースも想定し法治化の道、紛争解決のシステムづくりが今後、重要になってくる、と問題提起。その際、関係国の拠って立つ法的基盤が大陸法体系やイスラム法体系などさまざまなため、その調整をどうするかなどの問題が起きかねず、関係国間の調整が重要課題になる、と述べた。
●鈴木氏は、2000年に発足したアジア政党国際会議(ICAPP)が、多様な考え方を持つアジア諸国の政党間の交流や連携をもたらす存在になっているとし、今後、南北朝鮮間、また米朝間の問題解決につながる歴史的な役割を果たす可能性がある、と述べた。

第6回岡倉天心賞は徐氏、後藤氏、林氏の3氏が受賞、後藤氏らが受賞講演
続いて、午前の部の第2部では朽木昭文日大教授(学会理事長)の司会のもと、第6回岡倉天心賞受賞者を発表した。受賞者名および受賞対象作品は以下のとおり。
●岡倉天心奨励賞 徐涛氏(愛知大学国際中央研究センター研究員)
受賞対象作品:「台頭する中国における東アジア共同体論の展開
――戦略・理論・思想」(花書院)
●岡倉天心記念賞 後藤康浩氏(亜細亜大学都市創造学部教授)
受賞対象作品:「アジア都市の成長戦略」(慶応義塾大学出版会)
●岡倉天心国際学術文化賞 林敏潔氏(南京師範大学教授)
受賞対象作品:「日本と中国の大学生たちのキャンパスライフ 日・中大学生の価値観比較」1
「グローバル時代の日本と中国の若者たち 日・中大学生の価値観比較」2

〜〜受賞対象作品の表紙、推薦文等詳細は こちら〜〜
この受賞発表を受けて徐涛氏と後藤康浩氏が謝辞を述べると同時に、記念講演を行ったが、林敏潔氏は中国在住で来日が難しく、今大会には欠席となった。徐氏は受賞講演で、東アジア共同体論を展開するにあたって外交戦略の視座と思想の視座の2つの視座が重要と述べ、今のような地球化時代にこそ東アジア地域統合が重要で、そのためにも東アジア共同体づくりに向けた議論が必要と強調した。そして、岡倉天心が生きていれば「21世紀のアジアは1つ」と言うかどうかがポイントだ、と述べた。
また後藤氏は、世界の成長センターとなりつつあるアジアで今後、都市の発展が成長のカギを握る、との観点から「アジア都市の成長戦略」の本を書いたことを明らかにした。そのあと、人口の過度な都市集中に伴い道路や鉄道のみならず病院や教育、上下水道などさまざまな社会インフラの未整備がネガティブファクターとなる半面、ヒト、モノ、カネなどを軸に集積のメリットも出てきて都市主導の成長が見込めるなどを指摘した。

一帯一路日本研究センターメンバー7氏による現地調査報告も
午前の部の第3部は周璋生立命館大学教授を司会者・報告者に一帯一路日本研究センター訪中団メンバーが現地調査報告を行った。メンバーは唱新(福井県立大学教授)、竹内幸史(国際開発ジャーナル誌編集委員)、渋谷祐(中国研究所シルクロード研究会代表)、朱炎(拓殖大学教授)、李瑞雪(法政大学教授)、徐一睿(専修大学准教授)、後藤康浩(亜細亜大学教授)の8氏。
このうち、アジア港湾物流の現場を調査した唱新氏は、「中国、韓国、日本や台湾など北東アジア各国に比べ、ベトナムなど東南アジア地域の港湾施設、後背地への物流ルートなどはコネクティビティ(連結性)に欠けインフラ整備が課題になっていた」と指摘。竹内氏は、アジアに重電機器輸出を行う中国メーカー、東方電気集団公司などの工場現場を見学して課題を探った報告、また渋谷氏は「海のシルクロードの選択と関与――エネルギー連結と日中の役割」というテーマで報告、ロシアから中国へLNG(液化天然ガス)を運ぶ氷上シルクロードが始動しエネルギー面で「東と西を結ぶ」ルートから「南と北を結ぶ」ルートにまで広がりが出ていることを指摘した。
朱氏は、一帯一路プロジェクトに日本企業がどうコミットするか、中国企業との連携チャンスの可能性などに言及、端的には中国企業だけのプロジェクト展開ならば単なる中国の国益に寄与するだけのものでしかないが、日本企業が第3国市場で連携すれば国際インフラ協力につながり地域貢献メリットも大きいと指摘した。李氏は、「ユーラシア大陸横断鉄道コンテナ定期輸送とロジスティックス、クラスター形成」と言うテーマでの現地調査結果を報告、物流集積やクラスターの形成が今後の大きな課題だ、と述べた。
徐氏は、地域公共財としてのインフラ整備に対して、一帯一路プロジェクトが新たなチャンスを生み出すかどうかの観点で現地調査した中国国内の瀋陽市や大連市などの現場事例を報告、地域における共同需要と共同利益を満たすために集団行動による地域公共財の共同生産と共同供給できる協業システムの構築が不可欠になっていると指摘した。後藤氏は、一帯一路プロジェクトの展開次第では沿線都市の成長戦略の意味を持つ可能性があることを指摘、ただ、アジア地域で都市間競争が厳しくなっていく中で、都市を結んで線にしていくだけでなく、面的な広がりを持った都市の新結合を行えば成長につながっていくことを現地調査で感じた、と述べた。

基調講演で井川氏が「一帯一路のガバナンス強化」の必要性を強く指摘
午前の部の第4部は、谷口誠元外務省国連大使(一帯一路日本研究センター顧問)を行う予定だったが、急に都合が悪くなり欠席となった。このため、井川紀道東洋学園大学客員教授(元世界銀行グループMIGA=多数国間投資保証機関長官)が「一帯一路の将来をガバナンス問題から考える」というテーマで基調講演を行った。
井川氏は冒頭、一帯一路のプロジェクトに関して、歴史的趨勢の視点に立って、その意義が十分にある、との見方の一方で、中国が政治的・経済的な影響力の拡大をめざして覇権主義を貫こうとする見方、とくにスリランカの港湾建設に際して、中国が受益国に過剰な融資で債務累積を与え、返済困難を理由に港湾の管理運営権を長期に租借したりしたことをめぐりガバナンス上の問題がある、との見方も広がりつつあると指摘、この際、一帯一路の将来をガバナンス問題から考えてみる必要がある、と述べた。
井川氏は講演の中で、「中国は、一帯一路のプロジェクトがオープンで多くの国々や企業に開かれている、と言いながらも、現実には中国企業が受注し利益を中国にもたらす結果になっている。米国シンクタンクは、パキスタンなど8か国の一帯一路がらみのプロジェクト融資が債務返済リスクを著しく高めている、とのレポートを出したりしている」と指摘、そこで、長期的にガバナンスを強化することが重要で、具体的には入札制度の透明性確保、環境・社会セーフガードの順守、債務の持続性を個別に確保するなど「質の高いインフラ事業」に持っていくことが必要だ、と述べた。
そして井川氏は、日本が客観的、長期的視点に立って一帯一路プロジェクトに協力していくことが重要としながらも、日中企業が第3国で互いに協力する場合、1)相手国の財政の健全性、2)開放性、3)透明性、4)経済合理性の4条件をベースにすることをポイントにすべきだ、と結んだ。

「米中貿易摩戦争と一帯一路構想の新展開」テーマでパネルディスカッション
午後の部の第1部は、出版記念シンポジウムとして、「米中貿易戦争と一帯一路構想の新展開」と題してパネルディスカッションを行った。朱建榮東洋学園大学教授の司会のもと、パネリストは坂東賢治毎日新聞専門編集委員、小原雅博東京大学教授、沖村憲樹科学技術振興機構元理事長、萩原伸次郎横浜国立大学名誉教授、朽木昭文日本大学教授・学会理事長の5氏。各氏の主な発言要旨は以下のとおり。
●坂東氏:米国は、対中貿易赤字の是正にこだわるだけでなく、ハイテク技術を軸にした中国の台頭に強い危機感を持ち、戦略的競争という新たな切り口で中国に相対峙しようとしているのが注目点だ。一帯一路問題に関して、米国は、中国が借金漬け外交によって経済的影響力を行使しようとしていることに強く反発、ペンス米副大統領が「自由で開かれたインド・太平洋戦略」で対抗、さらにボルトン米大統領補佐官も対アフリカ戦略を打ち出し中国の一帯一路を意識した開発戦略を示して中国との競合を狙っている。
日本にとっては、同盟国の米国につくのか、中国につくのか、一帯一路が一種の踏み絵になって揺さぶりがかかっており、どう対応するか、ジャーナリストの関心事だ。
●小原氏:トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争をめぐり、米国内でもさまざまな意見が出ていて一枚岩ではない。現に、中国の譲歩を引き出す追加関税策は米国に有利なカードというトランプ大統領に対し、米国サプライチェーンに影響が出てくるとの懸念も出ている。
日本は一帯一路問題を含め米中貿易戦争への対応が問われる。日米中の三角形の関係のもとで、日米同盟関係を基軸にせざるを得ないと考えるが、「競争から協調」「お互いパートナーとして脅威にならない」「自由で公正な貿易体制発展」の3原則で行動すべきだ。
一帯一路問題に関しても、開放性や透明性、経済性など国際スタンダードに合致したプロジェクト展開を主張、第3国の利益となる形での日中民間協力で対応をすべきだ。
●沖村氏:中国の科学技術の現状を冷静かつ客観的に見る必要がある。中国は国家が軸になって科学技術発展を最優先課題にする大学政策や人材政策などに大胆に取り組み、今や日本を抜き去って米国とトップを競っている。しかもかつてのような輸入技術依存から次第に自主技術開発にシフトし、米国もハイテク摩擦に発展させ危機感を強めている。
一帯一路に関しても、中国の科学技術力を背景に産業技術が強くなれば、その技術を生かすはけ口としてのプロジェクト展開も想定される。
●萩原氏:米国が貿易戦争にとどまらずハイテク面でも対中制裁を進めているのは、世界における覇権を中国に奪われないようにするためで、その危機感が中国の知的財産権侵害対策の重視にある。しかし今後、米中交渉がまとまらず、米中間で貿易戦争がエスカレートすると世界経済への影響、とくに景気停滞が避けられない。
●朽木氏:中国が今、「中所得国のわな」からの脱出に向けて、さまざまな政策展開を行っていることを冷静に分析しておくことが米中貿易戦争の今後を見るうえで重要だ。
端的には米国が懸念する「中国製造2025」に関しても、モノとインターネットをつなぐ第4次産業革命を軸に据え、航空・宇宙設備、先端デジタル工作機械など中国政府が戦略的新興産業を位置づける産業群を自由貿易試験区での航空・運輸サービス業など現代サービス業の対外開放実験とリンクさせ、ハイエンドのグローバル・バリューチェーンづくりをめざそうとしている。一帯一路も、自由貿易試験区を使ってプロジェクト参加国と連結させ、そのグローバルチェーンづくりにつなげる狙いも見える。

氷上シルクロードプロジェクトにチャレンジした日揮の取り組みを川名氏が講演
午後の部の第2部は大西広慶応大学教授の司会のもと、記念講演を行った。日揮の川名浩一副会長が「氷上シルクロードと饒舌なサムライたちーー日揮の挑戦」と題して、過酷な気象条件などの環境下にある北極海の一角で、長期間にわたってLNGプラント建設に取り組むプロジェクト現場の状況を語った。しかし川名氏の講演でのメッセージは、「科学者は今あるものを研究し、エンジニアは今までなかったものを創る」という言葉を引用して、イノベーションによる産業システム変革へのチャレンジなどの重要性にも言及した。
また、記念講演の最後を締めくくる形で、一帯一路の中核の中欧鉄道(中欧班列)を使った物流にかかわる中国長久集団の長久物流日本代表の夏紀氏が登壇、物流ビジネスの現状などを講演した。

進藤学会会長が「ユーラシア新世紀への道を踏み出している」と大会総括
最後に、進藤榮一国際アジア共同体学会会長(筑波大学名誉教授)が、大会総括という形であいさつに立ち、次のように締めくくった。
「一帯一路のプロジェクトをめぐっては、さまざまな議論がある。今大会でも、ガバナンスの必要性の問題提起など重要な指摘があったが、インフラ開発につながるプロジェクトの現場の動きは着実に世界を変えつつあることを実感した。また米中貿易戦争の動きを見ていると、かつての日米貿易戦争での米国の東芝叩きと同じ手法で、中国に対峙し、結果的に世界経済を混乱させる動きを生み出している。世界中は今、さまざまな課題を背負いつつあるが、私は、パクス・アメリカーナからユーラシア新世紀への道を踏み出している、と考える。私たちの取り組みはその一歩だ」(文責・理事 牧野義司)

学術交流懇親会
大会、シンポジウム終了後、近くのレストランで懇親会を行いました。
写真は中国側参加者と会長、立命館大学の周教授

 

 

 


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