論稿「東論西遊」

米中貿易経済戦争の本質:5Gをめぐる主導権争い ―HUAWEI(華為)に対する米国の対応から見える焦り

東洋学園大学教授 朱建榮 2019.1.8

去年12月1日、米中関係を左右しかねない二つのことが同時に起きた。
一つは、トランプ米大統領と習近平中国国家主席がG20の開かれたブエノスアイレスで行った会談で、両首脳の間で90日間の貿易経済交渉延長の期限に合意し、当面の正面衝突がひとまず回避されたことだった。
もう一つは、その数日後に初めて披露されたが、世界の1、2位を争う中国の大手通信企業HUAWEI(華為)の副会長兼最高財務責任者(CFO)で任正非会長の愛娘孟晩舟氏がカナダで拘束されたことだ。
米側はその後、この二つのことは無関係と主張している。中国側も表向きでは孟晩舟拘束事件をアメリカとの政府間経済交渉から切り離しているように見える。しかしこの二つのことは裏でつながっている。そのつながりを検証することで、米中間の貿易経済摩擦の本質も見えてくる。実際にそれは本質的に次世代ハイテク技術の主導権をめぐる争いであり、HUAWEIはまさにこれまでのアメリカの技術覇権に挑戦する中国の代表選手なのである。
孟晩舟拘束事件について、日本でも結構報じられているが、ほとんど米国側、正確に言えばアメリカ政府側の言い分を鵜呑みにした見方と分析の仕方だと言わざるを得ない。ここでは米欧の学者の見解も紹介しながら、特に中国側の受け止め方、対応の仕方を中心に検証してみたい。

一 孟晩舟拘束をめぐる3か国間の攻防
孟晩舟氏が拘束されたことは、米国はいよいよ禁じ手まで使ったなと直感し、首脳間で達した脆弱な合意(90日間猶予)も台無しになるのではと懸念した。
案の定、中国筆頭外務次官が米国とカナダの北京駐在大使を呼び出して強く抗議し、盧沙野・中国駐カナダ大使は12月13日、地元紙グローブ・アンド・メールに「事件は単純な司法案件ではなく、政治的な陰謀だ。中国のハイテク企業に対する国家権力を利用した米国の魔女狩りだ」と強く批判する寄稿を掲載した。
カナダの裁判所は12月11日、孟氏の保釈を認めたものの、米国への身柄引き渡しの可能性が依然残る中、元外交官らカナダ人二人がスパイ容疑で中国で拘束された。中国当局はそれと孟氏拘束との関連を否定しているが、誰から見ても、それは米国、カナダ、中国の三者を巻き込んだ激しい駆け引き、「ビッグ・ディール」の一環である。
そもそも孟晩舟副会長の拘束は国際法上、違法である。孟氏はバンクーバーの国際空港で乗り換えた際、米側の要請でカナダ警察に捕まったが、国際線トランジットの区域は国際法上、カナダの領土ではない。米国と犯罪者身柄引き渡し協定を持つとはいえ、第3国の公民を拘束できる根拠にならない。
どうも米側から最初は「孟氏がカナダ永住権を持つから」との「がせ情報」をカナダ側に流したらしい。カナダはアメリカに断れない弱い立場であり、「カナダの永住権を持っているなら、拡大解釈して拘束の理由になるだろう」と考え、結局、火中の栗を拾ったことになった。ところが、保釈をめぐる裁判で、孟氏の永住権資格は2009年に放棄されており、カナダが孟氏を拘束する国際法上の根拠が何もないことが明らかになった。その後、中国からの猛烈な圧力を受けて、最初は完全に米側に立ったカナダのトルドー首相も困り果てたらしく、「米中間の激しい覇権争いに巻き込まれた」との心境を吐露した。

二 米欧の学者も米国のやりすぎを批判
米側は、HUAWEIの秘密の子会社SkyComにアメリカの制裁措置に違反するイランとの取引を実行させた疑いで孟氏逮捕を要請した理由を挙げたが、これについて米国内でも疑問視されている。12月11日付米国の時事問題サイト「Project Syndicate」に「The War on Huawei」(HUAWEIに対する戦争)と題する論評が掲載された。
作者はコロンビア大学教授ジェフリー・サクス(Jeffrey D. Sachs)であり、彼は次のように分析した。米国の多くの銀行と証券会社がキューバやイランへの輸出規制に違反したケースで多額な罰金を科することがあっても、その責任者は一度も逮捕されなかったし、2008年のリーマン・ショック前後に普遍的に存在したこの種の行為で罪を追及されるべきではない。今回の逮捕劇は米国自身の「大義名分を掲げた偽善とエゴの現れ」であり、「安全を理由にファーウェイを締め出そうとしているが実際に一つも証拠が得られていない」「これはトランプ政権が中国のハイテク技術の発展を阻止するための、中国に対するマイナスの影響が大きい経済戦争の一部だ」と批判した。
米国経済サイトCNBCの報道によると、イェール大学の経済学者ステファン・ローチ(Stephen Roach)も、なぜ米企業が同じ米国国内法に違反しても罰金を払うがエグゼクティブが逮捕されないのに、HUAWEIにこの手を使うのかと詰問し、これは「中国に譲歩を迫るのにあらゆる手段を使うことを意味する政治決定」と呼んだ。
Forbes誌サイトには、「The Feds Shamefully Persecute China’s Huawei For Being Too Successful」(恥知らずにHUAWEIを迫害したのはHUAWEIが成功しすぎたため)と題する解説が掲載された。
同解説は冒頭、米国経済学者カラベル(Zachary Karabell)の分析を引用する形で、孟晩舟氏の逮捕は中国にとって、中国人がアップル創設者ジョブスの娘を逮捕するようなショッキングなことだと比喩した。
As is well-known now, American authorities asked Canadian officials to arrest Huawei CFO Meng Wanzhou last week. The Canadians complied, and that on its own should have readers a bit terrified. Financial commentator Zachary Karabell observed that the arrest was “somewhat like the Chinese arresting the daughter of Steve Jobs if she had helped run Apple.”
続いて、HUAWEIの強さを紹介した上で、同解説は、米当局が挙げる「安全上の理由」によるHUAWEI締め出しに疑問を呈した:HUAWEIがアメリカ市場で儲けようと考えているのにどうして中国政府は米国のお客さんを敵に回す必要があるか。
The main thing is that national security types are wrapping themselves in a false argument that the Chinese will spy on us through our phones. Ok, but what will they do? As President Trump’s endless Tweets about China remind us, we’re a huge market for Chinese companies. So, we’re supposed to believe the Chinese government will spy on us in order to war against the biggest market for companies close to that same Chinese government?
作者は、これは貿易保護主義の行為だと断言した上で、「そのために勝手に人を捕まえられるなら、次に殺人もありうるのでは」と同解説が警告した。
The whole Huawei story is a ridiculous one. And a protectionist one. And one rooted in flamboyant confusion about economics within the U.S. political class. But the worst thing about this story is how dangerous it is. When protectionism leads to arrests, it’s not unreasonable to assume that shooting could be next.
その締めくくりの言葉はこうだ。孟氏の逮捕は間違いなく、「insane」正気を逸した行動である。
The above in mind, we’ve heard since Trump entered the White House that he’s surrounded himself with people who understand diplomacy and the importance of trade to world peace. It’s time for those people to stand up in the Administration, and to show a willingness to depart same unless sanity prevails. Because make no mistake about it, the arrest of Meng Wanzhou was truly insane.

偶然の一致か、イギリスFT紙も「Huawei spat comes as China builds lead in 5G」と題する同じ見解を述べた解説を掲載し、米国がこんなにHUAWEIのイメージダウンを図り、締め出し作戦に躍起なのはHUAWEIに後れを取ったとの危機感が生じたためだと指摘した。
同記事の冒頭部分を引用する:
A leaked memo, apparently written by a senior National Security Council official, revealed as far back as the start of this year exactly how worried the US is about Huawei.
The rise of the Chinese company to become the world’s biggest supplier of telecoms equipment has given China a huge boost over the US in the race to introduce and develop 5G, the next generation of mobile communications, the memo complained.
“We are losing,” it said. “Whoever leads in technology and market share for 5G deployment will have a tremendous advantage towards […] commanding the heights of the information domain.”

そのさなか、トランプ大統領は「中国が貿易交渉で大幅に譲歩するならこの件に介入しても良い」と発言した。NYタイムズ紙にこれに関する論評を掲載し、「司法独立」の仮面を剥がした。
“It sets a very bad precedent,” said Nicholas Burns, a former under secretary of state and ambassador to NATO who served in Republican and Democratic administrations and now teaches diplomacy and international relations at Harvard. “By mixing justice with trade and the rule of law with trade, it devalues both.”

三 HUAWEI問題の本質
では5Gをめぐる競争でどの国が強いのか。中国の専門家は2018年12月24日付の中国の学術サイト「觀察者網」に本格的な比較分析の論文を発表している。
同記事は五つの分野で国際比較を行った。それによると、
A 国際的に統一的に採用されている5Gの標準について。中国は21項目、米国は9項目、EUは14項目、日本は4項目、韓国は2項目をそれぞれ持っており、中国が大幅にリードしている。
B 5G設備に使われる中核部品チップについて。米国が優位を持っており、EUは衰退しているが、中国は力を尽くして追い上げを図っている、との構図。
C 5Gの実用化に欠かせない通信システムの技術と設備(管理システム、運用センター、発信施設など)について。中国が圧倒的に強い。
D 価格競争力:中国も断然強い。
E アフターサービス能力:これも中国が突出して強い。

ちなみに、中国では2019年より、5Gの国内実用化が本格的にスタートすることになっており、それに関する知識普及は早くから主要メディアで行われている。たとえば、以下の二つの解説は、「5G」の原理、可能性について一般向けにわかりやすく説明している。
一つは「財經頭條」サイト(2017年2月15日)に掲載された「什麽是5G,看完這篇文章就足夠了!」(5Gとは何か、この文章を読めばすべてわかる)という解説文。
もう一つは「知乎」サイトに2018年8月16日付で掲載された「第一次有人把5G講的這麽簡單明了」(5Gを初めてここまでわかりやすく説明する)との見出しの紹介文章である。

そして特に5Gの導入によって、社会がどう変わるか、産業システムにとってどのような「革命的」変化をもたらすか、これについて『人民日報』と『経済日報』という中国の二つのメジャー新聞はそれぞれ詳しい解説を掲載した。
2018年11月22日付『人民日報』に掲載された「5Gの幕は切って落とされた それがどのように社会を変えるか」(5G大幕已啓 將如何改變社會?)と題する特集 はまず次のような趣旨説明を書いた。
間もなく到来する5Gの時代は、早いネットアクセスのスピードをもたらすだけではない。AI、無人運転、VRなどの未来技術の実用化の基盤を作り、Iot世界のドアを開ける。
そして特集の中で特に米側の見方が多く紹介された。たとえば、
ホワイトハウスの次席技術補佐官Michael Kratsiosが18年10月25日の声明で「情報化の時代において、5G技術をリードする国が世界をリードする」「米国の優位を保つために5Gの開発にもっと資源を追加しなければならない」と述べたこと、
アメリカの専門機関CTIAは、5G技術の競争において米国は全般として中国に後れを取っているが、積極的に取り組めば劣勢はまだ挽回可能、との報告書を出したこと。
また、別の報告書によると、5Gの整備において中国の年間支出は米国より240億ドル多く、すでに35万個の通信スポットを持っているのに対し、米国は3万個未満だ、という。
2018年12月29日付『経済日報』に掲載された、「新産業革命と高品質成長」と題する中国経済フォーラムで中国情報通信研究院総工程師余曉暉の基調報告の要約 は5Gの経済社会に対するインパクトを次のように説明した。
「5Gは伝統的な産業システムに革命的な変革をもたらす技術であり、今後数年間、巨大な変化が起こりつつある」「Iotは新産業革命の重要な柱であり、5Gへの転換はIotの基盤になる」
8億以上の中国人が見ているWeChat(微信)に流れた2019年からの中国全土における5Gの導入地域の順番、4Gとの「雲泥の差」およびその波及効果などに関する解説記事によると、2019年から次々と導入される中国の5Gの地域図はすでに確定しており、「中国の5G時代が本格的に到来した」と断言された。
5Gの重要性、それをめぐる米中競争の勢力図が分かれば、アメリカがなりふり構わぬ手段でHUAWEIに代表される中国の通信技術企業を狙撃する焦りと凄まじさが見えてくる。

四 中国の5Gに対する米国の狙撃作戦
ところで、米側は各国に対して、「HUAWEIは安全上問題がある」としてその採用を阻止しようとしているが、ヨーロッパで発行部数が最も多いドイツの時事週刊誌『デア・シュピーゲル 』(Der Spiegel) は、ドイツは自分のルールですべてのメーカーの通信設備を管理・監視しているのでそのような心配をしていないとした上で、米側に次のような揶揄を送った。
今日まで、HUAWEIのルーターに一つだけ、(秘密漏えいの)バックドアが見つかっている。スノーデンの暴露でようやく突き止められたが、暗号コードはHeadwaterで、10年前から使用され、米当局USSSが開発し、密かにHUAWEIの設備に植え付けたもので、HUAWEIのデータすべてを監視するためだった。
少し古い記事だが、NYタイムズの2014年3月23日紙面に次のようなスクープ記事が掲載された。スノーデンの暴露によれば、CIAはその年まですでに7年間にわたってHUAWEI本部のプロバイダーに侵入してバックドアを作って監視し、任正非会長以下の役員同士の通信記録も窃取した。暗号コードは「Shotgiant」だった。
もし今日まで、HUAWEIがスパイ活動をしているとか、人民解放軍と組んでいるとかの問題点を見つけていれば、米当局はとっくにそれを暴露してHUAWEIを窮地に追い込んでいたのであろう。中国のもう一社の通信大手ZTEに自分の中核的技術とチップを持たない弱みをもっていると米政府が把握しているので、昨年前半、理由をつけてZTEにチップを供給しないとの制裁措置をとり、ZTE側は折れざるを得ず、巨額の罰金を払った上、今は米側が派遣した監視員の下に置かれている。
逆説的だが、技術面でHUAWEIを追い込む決定打がないことが分かった米当局が今度、同盟国などに対して、具体的な根拠が何も挙げられない「安全上の懸念」を立てて強引に使用禁止を求めたのだろう。言ってみれば、米国の主導で決めたルールによって競技場で決勝戦が行われているが、米国チームが負けそうになったため、いきなり子分を場内に乱入させ、選手であるはずのアメリカ人が急にレフリーに変身し、「これまでの試合ルールは相手に有利だ、変更だ」と叫び出し、観客席からはそれは「勝つために手段選ばず」にしか見えない。

五 HUAWEIの任正非会長は現代の渋沢栄一
もう一つのHUAWEI非難の「うわさ」がある。任正非会長はかつて解放軍に服役したことがあるため、「だから人民解放軍とつながりがある」との説。日本の新聞記者もこの説をよく引用している。
しかしかつて軍に服役したから、との理由であれば、韓国エリートはほぼ全員その経験がある。日本の企業など各界で活躍する人の多くも自衛隊員の経験がある。米国も同じだ。かつて服役した、それだけの理由で、「だから軍といまだにつながっている」との説を平然と書く人は、アメリカの説なら何でも信じてしまう癖からか、真実を追求する気持ちを失っているかと疑われても仕方ない。
しかし真相を掘り起こそうとするジャーナリストはやはりいる。台湾『聯合報』系の「世界新聞網」が2018年12月8日、これに関するスクープ記事を掲載した。
実は任会長の父親は文化大革命中、政治犯(反革命分子)だった。だから政治に距離を置き、技術畑に没頭した。ちょうど軍の工兵部隊に技術者がほしいから入隊したが、腕が優れても認められなかったため「慎重で低姿勢」の性格を形成した。除隊後、転々としてついに自分の企業「華為」を興すことになったが、いつも「政府の背景を持つ国有企業」にハンディをつけられたため、常に部下に対して、「とにかく生き抜いていけ」と求めた。
中国の主要情報サイトの一つ「騰訊網」の長編記事でも、創業初期の任氏は深圳にある十数平方メートルの小屋に父母と同居し、ベランダでご飯を作り、親はいつも市場で捨てられた野菜の葉っぱや死んだ魚とエビを拾ってきておかずにした、とルポしている。
任会長は普段寡黙な方で自分のことをめったに話さない。しかし意気投合したSONYのCEO吉田憲一郎氏との対談で自分の歴史についてようやく口を開いた。その記録も中国で紹介されているが、それによると、軍の工事建設技術者が深刻な不足だったため1974年、「工程兵」(道路建設担当の軍隊)の技術者としての入隊が認められたこと、退役後、国有企業に一時勤務したが業績と提案が認められず、そこから辞任(除名との説も)して1987年、HUAWEI(華為)を日本円35万円を共同出資して創業したこと、最初の20年間、企業は何度も窮地に追い込まれ、任氏本人は何度もうつ病にかかり、自殺を考えた、という。
このような経歴を持つ任正非会長は常に当局と一定の距離を持つ。どんな社会的な職務も名誉ももらわない。今でもHUAWEIの株上場をせず全社員に株を持たせ、本人は1%強しか持たないが、国有企業や当局からは株式参入の道を封じた。それでもHUAWEIは暗に政府の影響下ではとの疑いに対し、内情を知るある友人からこう言われた。「任さんが娘孟晩舟を後継者にしようとしていることは周りは皆知っている。少しでも当局に口出しの余地がある中国の企業なら、
娘に地位を譲ることがありうるか」。(上の写真は1987年、任正非氏が起業当時の「華為」会社の建物)
先日、テレビ東京の経済情報番組に出演した際、同席した日本経済新聞の論説委員太田さんは、「例の島国有化以後、日本での展示・交流活動にほかの中国企業は皆来なくなったが、HUAWEIだけ日本での活動予定を一切変えなかった」と話した。
僕は中国の一般労働者家庭に生まれたが、任会長の歴史を調べていくうちに、どこか自分の経歴とダブったように感じられ、ますます敬意を持った。日本近代の企業家と言えば、一番尊敬したのは渋沢栄一だ。この二人とも、自国の真の民間企業を育て、結果的にそれぞれの国の近代化を引っ張ったという点で似ているのではないかと思った。
ちなみに、カナダで拘束された任会長の愛娘孟晩舟氏は日本が大好きで何度も来日している。3.11東北大地震の際、日本企業を含め、ほかのほとんどの企業が福島から撤収した中で、孟晩舟氏は放射線防御服を身に着けて第一線で通信施設の修復の陣頭指揮を執った。香港で東京行きの飛行機に乗り換えたが、乗っていた乗客は孟氏を含めてわずか二人だけだった。
HUAWEIの日本での貢献を知っているある日本人一般市民が、孟晩舟氏がカナダで拘束された後、HUAWEI日本本社宛に彼女を激励な手紙を送った(前の頁の写真参照)。この文は手紙の内容を詳しく紹介する余裕がないが、保釈中だが依然監視下に置かれていた孟氏自身は日記でこの手紙のことを取り上げ、「自分の心を温めてくれた」と書き残した。

六 中国首脳部は21文字方針を決定
では孟晩舟拘束事件が米中政府間の貿易経済交渉にどこまで影響し、HUAWEIないし米中関係全体の行方はなのか。
ボルトン大統領補佐官は「孟氏の拘束を事前に知っていた」といったん認めたが、間もなく、「大統領とその周辺は誰も知らなかった」との説に口が揃うことになった。今から見れば、トランプ大統領本人が事前に知らされていなかったのは本当だろう。ボルトン、ポンペオら周辺は知っていたと見られる。一方、中国側トップは12月1日夜のトランプとの会談に臨む前、その一報を受けた可能性が高い。うがった見方かもしれないが、自分は次のような仮説を立てた。
A ボルトン以下のタカ派が孟氏を拘束することによってわざと習近平主席を怒らせ、首脳会談での激論、決裂を望んでいた。
B 中国首脳部は、それは米政府内のタカ派による仕掛けと判断し、それを我慢してもトランプ大統領との合意を優先させた。
この仮説の傍証として、その後、中国側は事件そのものに厳しく対処しながらも、米中政府間交渉、特に貿易経済交渉に影響がないよう常に配慮したことが挙げられる。12月10日付『香港経済日報』のスクープ記事はこの関連で二つの重要な内容を披露した。
一つは中国首脳部が「不對抗、不打冷戰、按步伐開放、國家核心利益不退讓」という漢字21文字からなる対米方針を決定したこと。 日本語に訳すと、「対抗と冷戦を回避し、順を追って開放し、国家の核心利益は譲らない」という内容である。
もう一つはこの方針にも沿う形で、孟晩舟拘束事件、HUAWEI問題を慎重に米中政府間交渉から切り離すこと。切り離しを決断した理由は、「米側のタカ派に科学技術の新冷戦に引き込まれるのを回避する」という「大局」を最優先にするため、と説明された。
今後、米側からより一層揺さぶりをかけられるのが必至だが、メンツを重んじる中国は我慢できるのだろうか。との質問に対し、自分はどこかの講演で、メンツと重大な戦略的選択が天秤にかけられたら、中国は後者を選ぶだろう、と答えた。毛沢東は1937年、「抗日統一戦線」の大義名分のもとで10年間死闘した蒋介石の国民政府軍への編入を決断した。鄧小平は1978年、昨日まで万悪の根源とされた市場経済体制の導入、改革開放に踏み切った。中国人は長期的な視野を持つので、当面我慢すべきところは我慢するのだ。2500年前から「臥薪嘗胆」の知恵がある。
もう一つの質問も受けた。米側は今度、A貿易不均衡、B国内市場開放と知産権保護、及びC(米国に追い上げる)ハイテク技術開発の阻止との3点を中国に迫っていくが、中国側は受け入れられるか。自分の答えはこうだ。中国から見て、米当局は、当面の利益・成果を最重視するトランプ大統領と、中国の追い上げそのものを潰そうとするエスタブリッシュメント層に分けられる。よってトランプ本人にAとBを譲り、それと引き換えにCをエスタブリッシュメントから守るとの計算ではないか。先にAとBをトランプ本人に譲った上で、それでもC(一定の妥協はありうる)を追い詰めるならAとBの譲歩もやめるよと答える。ではトランプは何を選ぶか。
米国に譲歩すぎとの中国国内の不満に対し、どうも最近、「外圧を利用して国内改革を促進しようじゃないか」との説明が行われているようだ。ちなみに、「外圧利用」の中国語訳、ご存知ですか。タネを明かそう。「倒逼」である。

もちろん、孟晩舟氏が絶対米国に引き渡されないよう、米中政府間交渉と並行して次々と手を打つ。どんな手?と聞かれたら、「ご存知の通り」とここではこれしか答えられない。
中国首脳部はすでに決めた21文字方針に従い、米当局間との90日間以内の妥結を目指していくだろう。中国人民銀行の元副頭取朱民は、「90日以内に何らかの形で合意に達し、さらに6カ月から12カ月かけて決着にこぎつける」と語った。

七 HUAWEIは簡単に潰れない
ではHUAWEIは米側からの全面的掃討作戦でつぶれるか。いくつかの解説を紹介する。
12月17日付イギリス「フィナンシャル・タイムズ」(FT)紙の中文サイトに掲載されたルイス・ロカス記者の記事は、「極端に言って、アメリカの強引なやり方で欧米先進国におけるHUAWEIの発展が封じ込められても、その全地球規模の拡張を止めることができない」と述べた。
マレーレアの中文紙『亜洲日報」の12月24日付記事(「為何難撼動 華為手握三大武器」)は、HUAWEIは、技術競争力、追随を許さないアフターサービス及び価格的競争力の三つによって簡単に潰れないと解説。
12月24日付香港『明報』は、HUAWEIは毛沢東の「農村から都市を包囲する」戦略を取り、国内市場のみならず、まず全世界の途上国市場を制覇し、次に世界制覇との手順を取っているのではと分析。

HUAWEI自身の答えを見てみよう。その執行董事長が12月23日の記者会見で次のように説明した。
A、2018年のHUAWEIの売り上げは初めて1000億ドルを超えた。
B、すでに25か国で5Gの契約を獲得し、ほかの競争相手を優に凌ぐ。1万個以上の5G用通信施設が世界各地に発送中。
C、ビッグ500の企業のうち、200社以上がすでにHUAWEIをデジタル化事業のパートナーと選んだ。
という。
中国のある学者は僕の耳元でこのようにささやいたことがある。「10年前なら、アメリカの猛烈な圧力の前でHUAWEIがつぶれる可能性はあったが、今はあり得ない」「アメリカの通信産業、5Gビジネスですら、HUAWEIの多くの技術特許に依存している。どうやってシャットアウトできるか」。
HUAWEIは今日の米中間の、ハイテク主導権をめぐる争いの縮図でもある。

八 米中間の10年「戦争」が始まった
最後にまた、米国による執拗な締め付けに対する中国の著名学者の受け止め方と考えている対応策に関する注目記事を紹介する。
対米慎重派の代表の時殷弘教授は、「今後5年間、国内改革を深化するとともに、新しい形態の韜光養晦と新しい形態の『有所作為』をするよりほかない」「戦略的な後退を決断し、国内経済と対外関係の両面で『大躍進』のような過ちを絶対犯すべきではない」と指摘し、「米当局が中国を世界から締め出し、門を閉じようとしているが、中国は全力を尽くしてもドアを閉めさせず、日本・韓国のみならず、欧州・オーストラリアとの関係を深めるべきだ」とも提言している。
もう一人の常に自信・楽観派の金燦栄教授も「当面は慎重、長期的に楽観」との見方で今後10年間の対米関係と戦略を次のように展望した。
A、習主席は、今回の中米貿易戦は「遭遇戦」だと語った。中国は今後、それを「陣地戦」に変えていくだろう。
B、未来10年間の中米関係は「7割競争、3割協力」の構図になる。新冷戦や軍事衝突を絶対避ける。
C、十年間過ちを犯さず、コツコツとやっていけば、実力と影響力の両面で中国は(米国に接近する)一段上に上がるだろう。そうなれば、米国は中国を抑え込もうとしても無理と気づき、諦めるだろう。「もしかするとその時点で逆に両者がある種の協力パートナーになるかもしれない」。

米側は今後、だれが政権を担当しても、中国に揺さぶりをかけていく。とどのつまり、イデオロギーの相違なんて口実だ。中国がかつての日本と同じように失速し、米国にとって「無害動物」になれば、米側も追及の手を緩めるだろう。だって、中国とうり二つの社会主義体制を取るベトナムとは、米国は何もイデオロギーの相違を言わずに、中国けん制用のサポートを次々とやっているではないか。
一方の中国は10年以内、歯を食いしばってまず経済・科学技術力の面で米国に追い付くことを最優先目標とするだろう。そうなればG2の世界が現実になると見る。
どっちの夢が現実になるだろう。
それに対して、日本はどうするか。果たして10年スパンの眼力で習近平主席が言う「百年未有之大變局」を見ているのだろうか。

(終わり)

注釈


  1. https://www.project-syndicate.org/commentary/trump-war-on-huawei-meng-wanzhou-arrest-by-jeffrey-d-sachs-2018-12?from=groupmessage&isappinstalled=0
  2. https://www.forbes.com/sites/johntamny/2018/12/10/the-feds-shamefully-persecute-chinas-huawei-for-being-too-successful/#3deb0bbc5ad9
  3. http://www.ftchinese.com/story/001080670/ce?ccode=LanguageSwitch&archive
  4.  Trump’s Intervention in Huawei Case Would Be Legal, but Bad Precedent, Experts Say. https://cn.nytimes.com/usa/20181214/trump-meng-wanzhou-huawei-extradition/dual/
  5. 「全面分析:當今世界誰的5G實力最強」。https://mp.weixin.qq.com/s/FdcKfa9HosuW9bAQAmzS7A
  6. https://t.cj.sina.com.cn/articles/view/5721542983/15507d1470010015y2
  7. https://zhuanlan.zhihu.com/p/41182443
  8. http://world.people.com.cn/n1/2018/1122/c1002-30416344.html
  9. http://www.ceweekly.cn/2018/1229/245455.shtml
  10. 在米中文サイト「多維網」より転載。http://news.dwnews.com/global/news/2018-12-17/60105810.html
  11. https://www.worldjournal.com/6015156/article-%E7%88%B6%E8%A6%AA%E6%94%BF%E6%B2%BB%E7%8A%AF-%E5%B2%B3%E7%88%B6%E5%8A%A9%E8%B5%B7%E5%AE%B6-%E7%A5%9E%E7%A7%98%E4%BB%BB%E6%AD%A3%E9%9D%9E%E6%89%93%E9%80%A0%E3%80%8C%E7%8B%BC%E6%80%A7%E8%8F%AF%E7%82%BA/?ref=%E9%A6%96%E9%A0%81_%E8%B6%85%E4%BA%BA%E6%B0%A3%E6%96%B0%E8%81%9E&utm_source=BenchmarkEmail&utm_campaign=Dec_07_2018_Email&utm_medium=email
  12. https://new.qq.com/omn/20180324/20180324A051Y9.html
  13. https://ek21.com/news/2/6353/
  14. 中国「毎日經濟新聞」サイト2018年12月22日。胥帥「孟晚舟日記中沒講完的那些往事:地震後的逆行」。http://www.nbd.com.cn/articles/2018-12-21/1284324.html
  15. 香港經濟日報181210中方両考量 不欲影響談判大局。https://china.hket.com/article/2226571/%E4%B8%AD%E6%96%B9%E5%85%A9%E8%80%83%E9%87%8F%20%E4%B8%8D%E6%AC%B2%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E8%AB%87%E5%88%A4%E5%A4%A7%E5%B1%80
  16. 多維網181217中国央行前高官:中美將在90天内達成協議。http://news.dwnews.com/global/news/2018-12-17/60105905.html
  17. http://big5.ftchinese.com/story/001080713?from=groupmessage&isappinstalled=0&archive
  18. https://wxn.qq.com/cmsid/20181223A064AK00
  19. https://kknews.cc/world/oaoz666.html
  20. 人大重陽サイト190104金燦榮教授演講如何理解百年未有之大變局 中国外交面臨的挑戦。https://mp.weixin.qq.com/s/UaHBFBIJS0-5_ZZeisoFcQ

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