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[時代刺激人]イノベーション都市深圳レポート3 日本の対抗軸はオープン&クローズ戦略だ<牧野義司>

<時代刺激人コラム>第303回 2018年7月31日 経済ジャーナリスト 牧野 義司

【イノベーション都市深圳レポート3】
日本の対抗軸はオープン&クローズ戦略だ

中国国内各地からビジネスチャンスを求めて、あるいは出稼ぎ労働で押し寄せる「移民」、そして海外留学からスタートアップで帰国する海亀組などによって人口が1190万人に膨れ上がった香港そばの巨大都市深圳。その人口の平均年齢は何と32.5歳。成長への執着心の強い人たちを中心に人材集積、そしてハイテク・ローテク技術の集積があり、しかも電子部品を軸に数時間で部材を供給できる製造業サプライチェーンが出来ている。そこに深圳版エコシステムというヨコ連携の独特のイノベーション起こしの仕組みが作動し、時価総額10億㌦(円換算1100億円)のユニコーン企業などを数年内に誕生させている。

過去2回の現場レポートでご紹介したとおり、中国深圳はアジアのシリコンバレーと名付けてもおかしくないイノベーションセンターだ。この現実を見て、日本はサプライズだけでは今や済まされない。なぜ深圳で大胆なイノベーションが進んでいるのか、という点に関して、日本は何を学びとり、どう対応するかが問われている、と考える。

自前主義と決別し、オープンイノベーションで必死かつ大胆にチャレンジを
そこで、私の問題提起だ。結論から先に申し上げよう。深圳でスタートアップ企業のアイディアをすぐ製品化するメーカーズスペースといった、オープンな技術情報の交換広場システムはじめ参考になるものが多かったのは事実。しかし日本はこれら深圳モデルを真似ても無理がある。それよりも日本企業が自らの強み、弱みをしっかり見極め、その力をフルに作動させる新たな日本版エコシステムづくりに踏み出すしかない、と私は思う。

その軸になるのは、やはりオープンイノベーションだ。ところが日本では、このシステムについては、誰もが重要と認めながらも、産学連携など大学などとのおつきあい程度の連携にとどまった。肝心の企業内部でも、総論から、いざ各論に移る段階で、自前主義が災いし、また大組織病から問題先送りしてしまい、実体が伴わず現在に至っている。

でも、私の見る限り、日本はこのオープンイノベーションの重要性を再認識し、必死でチャレンジするしかない。その際、企業はレガシーと言われる過去の成功体験に執着せず、しかも自前主義、とくにすべて自前でやり遂げるというフルセット型自前主義と決別し、時代の先をしっかり見据えて、既存の枠組みと違って新しい発想で動く内外のスタートアップ企業などとオープンに積極連携することだ。今こそ常識破りが大事だ。

強みのコア技術を知財特許で固め、それを武器に他企業とオープン連携が重要
そのカギを握るのがオープン&クローズ戦略だ、と私は最近、実感している。具体的には、強み部分のコア技術、秘伝のたれの技術を知財特許でしっかり固め、それを武器にさまざまな企業と大胆にオープンベースで連携し専門知識や技術情報の交換や共有を行って新事業にチャレンジする。クローズドの強み技術部分をうまく活かすことがポイントだ。

日本企業は、優れもののオンリーワンの技術に加え、品質管理技術、メインテナンスの技術など、他の国々に比べて、まだまだ強み部分を持っている。だから、あとは自前主義を捨てて、新たにオープンイノベーションによって、広い外部の世界に横たわる新事業創出のビジネスチャンスとの連携を探ればいいのだ。あとでも述べるが、日本にとっては、そのオープンイノベーションの展開の場の1つが、アジアの成長センターだと考える。成熟市場とはいえ、人口減少で内需先細りの日本にしがみつく必要はない、と思っている。

「ダントツ商品」めざすコマツ、新たにシリコンバレーにアンテナ張り他企業と連携
日本でもオープン&クローズ戦略に取り組んでいる企業が多いが、私なりに、ぴったり合う2つの先進モデル事例をヒントにしたい。1つは、建設機械コマツの事例だ。ライバル企業が追随できない強み技術を見つけ出して機機種開発、サービス展開をグローバルに行い、それを強みに収益力を上げるという「ダントツ経営」がポイントだ。建設機械の位置情報や車両情報をGPS(全地球無線測位システム)やICT(情報通信技術)から得て、それをもとに保守管理から省エネ管理までのサービスを行う建設機械稼働管理システムKOMTRAXを開発した。中国内陸部での建設機械の稼働状況をこのシステムですべて把握し、遠く離れた日本からメインテナンス対応が可能、という優れもののシステムだ。

しかしコマツの面白さは、それら技術を武器にオープンイノベーションに戦略を切り替えたことだ。シリコンバレーやイスラエルのイノベーションセンターにアンテナを張りヨコ連携している。現に、ドローンを使った測定精度が高い米国スタートアップ企業SKYCATCHと資本提携し新ダントツ商品を狙っている。間違いなく先進モデル事例だ。

独自エンジン開発で成功のホンダジェット、国産自前主義を嫌い米国主戦場で勝負
もう1つは、自動車メーカー、ホンダのグループ子会社ホンダエアクラフトだ。ホンダジェットと呼ばれる7人乗りの小型ビジネスジェットに関して、航空宇宙工学専門家で開発総責任者の藤野道格ホンダエアクラフト社長が中心になって、独自技術による航空機エンジンを開発した。その分野の最大手GEが事業連携を求めてきたのだからすごい話だ。

もっとすごかったのは、そのエンジンを胴体部分ではなく主翼の上に搭載して航空機メーカーを唖然とさせた常識破りのイノベーションだ。世界的に、安全性チェックで厳しい米連邦航空局(FAA)が比較的早く評価を下し、型式認証を与えた。航空機専業の三菱重工業子会社、三菱航空機が開発中の三菱リージョナルジェット(MRJ)が安全性確保の面で課題を残し、いまだに型式認証がとれず「離陸」に至ってないのとは対照的だ。ホンダエアクラフトのすごさは、他の追随を許さないイノベーション技術のすごさだろう。

航空機専門家「ホンダジェットを親会社主導で、日本で生産していたら成功せず」
オープン&クローズ戦略の先進モデル事例として、この2社を挙げたのは、いずれもオンリーワンともいえる技術開発、イノベーションチャレンジを行い、その強み部分のクローズドの技術を知財特許で固め、それを武器に、外部企業とオープンに連携したことだ。

中でもGEと連携したホンダエアクラフトから学ぶヒントは、日本を拠点に、日本仕様の完成品をつくって世界に打って出る、という発想でなく、最初から主戦場の米国に本社機能、工場設備を置きボーイングなど他の航空機メーカーと競争したことだ。主戦場でこそニーズ開発ができる、との判断だ。しかもオープンイノベーションに徹し、ホンダジェットの部材に関しても品質重視で、米国産品にいいものがあればオープン活用した。そればかりでない。藤野社長が主導し30か国に及ぶ国々の技術者ら1800人を巻き込み、異文化コミュニケーション力を駆使して組織を動かしたダイナミックな指導力も学ぶ点だ。
ある航空機専門家は「ホンダジェットがMRJと同様、日本で親会社のホンダ主導のもとに開発を行っていたら、今日の成功はなかった。主戦場の米国でオープンイノベーションに取り組んだ藤野社長の判断は特筆すべきものだ」と述べている。そのとおりだ。

深圳イノベーション土壌が日本と違う、IT企業がデジタル社会化、市場サイズにも差
ところで、深圳を見ていると、日本と中国のイノベーション土壌に差があると思う。米国シリコンバレーに本拠を置くHAXというベンチャー支援のアクセラレーター企業が深圳に出先拠点を持ち、ネット上でスタートアップ企業を毎年、公募し有望企業を深圳に呼び込んでビジネス支援の特訓を行う。深圳版エコシステムの価値を認めているのだ。資金力ある中国などのベンチャーキャピタルがそれに連動する。日本にない枠組みだ。

まだ重要ポイントがある。経済成長で消費購買力がついた中間所得層を軸にした14憶人近い中国市場があることだ。ネット通販を含めた電子商取引が消費拡大ツールになる。アリババ集団などIT企業がスマホ決済などデジタル社会インフラを定着させたためだが、スタートアップ企業にとっては大化けして爆発的売れ行きにつながる。これに対する日本はこれらのイノベーションの仕組みがない上に、内需先細りで1億2000万人の人口規模とはいえ、成熟消費化して勢いがない。国内市場がなくて米国に活路を求めたイスラエルのベンチャー企業が今や中国市場に熱い視線を送っている。市場サイズの違いは重要だ。

東大伊藤准教授「加速都市深圳からイノベーションで学ぶことは多い」
中国深圳のイノベーション動向を丹念に現場ウオッチし「加速都市深圳」という切り口で分析評価されている東大社会学研究所准教授の伊藤亜聖さんは、中国のイノベーションについてサプライチェーン型、デジタルエコノミー型、社会実装型、科学技術型の4つに類型化できる、という考えだ。その伊藤さんが中国ベンチャー企業の動きをメディアのインタビューに答えて、的確に述べておられるので、紹介させていただこう。

「重要なのは、ベンチャー企業の数、そしてその意思決定、投資のスピード感だ。たとえば(自転車の)シェアサイクルは登場してからまだ15か月程度のサービスだが、最初の5か月で40社の競合が生まれ、1年後には半分ぐらいまで淘汰が進み、15か月後に生き残ったのはわずか3社。彼らを資金的にサポートするベンチャーキャピタルのスピード感がまたすさまじい。中国ではこうしたサイクルを回せば回すほど、時の流れが加速度的に進んでいく。加速都市深圳から学ぶことは多い」と。

「オープン&クローズ戦略」の著者小川さん、「成長センターで産業高度化に貢献も」
最後に、日本企業はオープンイノベーションのチャレンジの場をアジアの成長センター、ASEAN(東南アジア諸国連合10か国)やインドに求めよ、という持論を展開されている東大政策ビジョン研究センターのシニアリサーチャーの小川紘一さんの話が興味深い。実は、小川さんの著書「オープン&クローズ戦略――日本企業再興の条件・増補改訂版」(翔泳社刊)が鋭い問題提起だったので、ジャーナリストの好奇心から直接話をうかがった。

小川さんは、オープンイノベーション具体化にあたって、オープン&クローズ戦略、つまりクローズドの技術を知財管理でしっかり固め、それを武器に他企業とオープンに連携しろ、という立場だ。私も同意見だったので、今回、活用させていただいた。興味深いのは、著書で「今後、オールジャパンではなく『ジャパンイニシアチブ』へと考え方を切り替え、日本のものづくりも国内で磨くマザー機能と、新興国市場の前線に立つ現地の人々に任せる適地優良品のものづくり機能とに分けることだ」と書かれている部分だ。

小川さんによると、日本企業は今後、オープン&クローズ戦略をもとにアジアの成長センターに行き、各国の産業高度化に積極貢献することが重要、という。オールジャパンの丸ごと輸出、投資による事業進出という旧来手法ではなく、オープン&クローズを使い分け、新興国の産業が育つようにバックアップする。端的には製品コア部分は別にして、現地生産化が可能なモジュール生産部分をすべてオープンにし、現地諸国の自由裁量にゆだねる。米国インテルがコア技術部分の半導体CPUだけ自社に置き、あとは電子製品生産のほとんどを新興国に委ねたのと同じだ。日本は成熟市場化した国内市場にこだわらず、アジア成長市場で現地企業と連携し産業高度化に寄与すればいいのだ。いかがだろうか。

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