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[時代刺激人]イノベーション都市深圳レポート2 独自エコシステムがユニコーン企業を創出<牧野義司>

<時代刺激人コラム>第302回
2018年6月29日 経済ジャーナリスト 牧野 義司

イノベーション都市深圳レポート2  独自エコシステムがユニコーン企業を創出

世界ハイテク・イノベーションセンターの名乗りをあげつつある香港そばの中国深圳。その現場レポート第2弾では、なぜ深圳で次々に企業イノベーションが起きるのか、それにリンクする中国企業の動きはどんなものなのか――などを取り上げてみる。

ハード&ソフトウエアの2イノベーションが連鎖、米シリコンバレーなどにない強み

結論から先に申し上げよう。深圳は、米国シリコンバレーや中国北京の中関村のようなソフトウエアを軸にした既存のイノベーションセンターとは大きく異なり、独自のイノベーションを起こす枠組みを持っている。深圳版エコシステムというヨコ連携のサポートシステムがそれで、それらが現場でフルに機能し、モノづくりのハードウエアとソフトウエアの2つのイノベーションが互いに連鎖し合うような仕組みを作り出しているのだ。

それによってモノづくり先端技術を持つスタートアップ企業を、起業からわずか数年でマーケット評価を得て企業価値10億ドル(円換算1100億円)のユニコーン企業、あるいはそれに匹敵する事業規模の企業に大化けさせることが可能になっている、と私は見た。

このエコシステムは本来、エコロジー(生態学)の意味合いを持つ生態系のことだが、それが転じてビジネス現場で収益を上げていくためのヨコ連携システム、となっている。

ネット上でアイディアをオープン交流、アクセラレーターなどヨコ連携のエコシステム

具体的には電子部品などを安価で豊富に供給する、東京秋葉原の数倍規模の華強北地区がある上、それら部品を生産し数時間で供給できる製造業サプライチェーン網がある。しかも技術情報やアイディアをネット上でオープンに交流、それらアイディアを製品化するためのアドバイスを互いに行うメイカーズフェア、メイカーズスペースという独特のモノづくり広場システムがある。成功を独り占めするため、秘伝のタレの技術を隠したがることが多いが、深圳にはそれと無縁のオープンイノベーションの仕組みが出来ている。

スタートアップをめざす企業にアドバイスやサポートを行うインキュベーター、アクセラレーター、ベンチャーキャピタルなどイノベーションを支える企業群、端的には投資集団が控えているのも大きな特徴だ。アクセラレーターらは投資の見返りに株式を取得するため、投資が無駄にならないように必死でサポートするが、それがプラスに作用している。

興味深かったのは、深圳南山地区のハイテクパークの一角にあるカフェを覗いた時のことだ。喫茶室の奥に長椅子が階段状に並べてある。聞いたところ、スタートアップ企業がそれら投資集団相手に常時、プレゼンテーションしてアピールする場になるという。高層ビルが林立するパークの至るところがイノベーションに向け結び付いている感じだった。

深圳地方政府もイノベーションを積極財政支援、人材や技術が集積して好循環

深圳版エコシステムの極めつけは、深圳地方政府が補助金でイノベーション支援を行うほか、海外から優秀な人材を招致する孔雀計画でバックアップすることだ。これによって、深圳には中国国内はもとより海外からもビジネスチャンスを求めて人材が集積、さらには技術集積も可能になる。深圳の特許出願件数の多さを見る限りそれらが好循環している。

前回レポートで述べたとおり、深圳は、中国国内でも珍しい「移民都市」で、人口1190万人の平均年齢が32.5歳という若手中心の人口構成。高齢者が少なく社会保障関連の財政負担を強いられる必要がない上に、アグレッシブなベンチャー企業による法人税収がケタ外れに多いなどから、深圳地方政府は、イノベーション対策に回せる財政資金が潤沢にある。中国国内でも特異な深圳地方政府が行うイノベーション支援のインパクトは大きい。

「北京から遠い南方で既得権益がなく自由度がプラスに働く」深圳の特性も重要

20数年ぶりに訪れた深圳が、こういった形で世界でも例を見ない独自のイノベーションセンターになっていたのは、私にとって、ビッグサプライズだった。

前回レポートでの中国関係者の話をもう1度、紹介しよう。「深圳地方政府は共産党の指導があるとはいえ、(中国各地からビジネスチャンスを求めて集まる)移民人口が生み出す活力は大きい。しかも権力志向の強い北京中央政府から距離的に遠い南方地域にあること、改革開放モデル地区として自由度を与えられていたこと、(巨大な移民都市だけに)既得権益勢力がはびこる余地がなかったことなどがプラスに働いた。だからイノベーションに対し貪欲なチャレンジが可能になった」という指摘は、改めて重要ポイントと思える。

それと、深圳が40年前、改革開放路線を打ち出した当時のトップリーダー、鄧小平氏の指示で経済特区指定を受け、輸出向け電子製品組み立て型産業集積の「世界の工場」となったことは、今にすれば効果が絶大で、サプライチェーン網を軸にハードウエアイノベーションの素地が出来た。その後、文化大革命の影響を恐れ香港などに逃げた企業家らが深圳に戻り、ソフトウエアイノベーションを起こす担い手となったことも見逃せない。

起業してからわずか数年で時価評価10億ドルのユニコーン企業などが目白押し

そこで本題に入ろう。起業して、わずか数年でユニコーン企業、あるいはそれに匹敵する事業規模に急成長した深圳のスタートアップ企業のことをぜひレポートしたい。

ユニコーン企業はネット上の百科事典ウイキペディアによると評価額が10億ドル以上の株式非上場のスタートアップ企業のこと。ベンチャーキャピタリストのアイリーン・リー氏が成功企業の希少性を表すため、神話的な動物ユニコーンから名前をとったという。

私が現場で目にしたユニコ-ン企業の1つは深圳拠点のDJIだ。空中からカメラ撮影する無人航空機ドローンの開発・生産・販売に取り組む企業で、2006年創業からわずか12年で世界シェア70%を有する企業に急成長、2017年時点の売上高は円換算3000億円にのぼる。創業時は20人スタートだったが、今や社員数1万1000人に膨れ上がる。主力が研究開発に取り組む人たちで、しかも社員平均年齢が26歳というから驚きだ。

ドローン開発のDJIは創業時から海外特化、世界シェア70%の企業に急成長

創業者のフランク・ワンさんには今回、会えなかったが、ワンさんが香港科学技術大学院在学中、ヘリコプター制御技術の研究成果がビジネスになると起業、試行錯誤の末に4つの回転翼をつけた「ファントム1」という小型ドローンを開発し一気に開花したという。

本社ビル近くのショールームで、手のひらに乗る超小型ドローンなど個人ホビー用から商業用の機種までを見ると同時に、屋外でいくつか空中飛行操作も見せてもらった。空中で静止させたりする制御機能の付いたコントローラー、それに画素数がケタ外れに大きい高性能カメラをリンクさせて空中を飛ぶのだが、技術レベルは確かに高かった。

DJIが深圳エコシステムをどう活用したかが関心事だ。DJI関係者によると、創業リーダーの独自開発力がベースにあるが、バッテリー生産は深圳サプライチェーン網に頼ったこと、深圳地方政府が補助金支援でバックアップしてくれたことが大きい。それを踏まえ、欧米市場動向調査したところ安全規制ルールが明確で、アウトドア生活を楽しみドローンニーズが高く、中国国内よりもメリットありと創業時から海外に販売特化した、という。

DJIは宅配便よりも肥料散布ドローンに関心、重量・長距離運搬はバッテリーに課題

私は中国、日本、米国で急速に広がるネット通販対応の宅配便ドローン開発の考えを聞いたところ、DJI関係者は「現時点でNO」とし、むしろ農業現場で人手不足が深刻になるため、5機で同時に肥料の空中散布、とくに夜間も作業可能なドローン開発に取り組んでいるとか。しかし専門家の話ではDJIの弱みはバッテリー充電器開発が遅れたことで、重量のあるものを運搬し長距離輸送できる大型ドローンへの取り組みが今後の課題、という。

とはいえ、DJIを見ていて、ユニコーン企業の座にまで駆け上がるだけのバイタリズムを感じた。なにしろ平均年齢26歳という、若者たちが主導してソフトウエアとハードウエア双方のイノベーションを生み出している、というのが実感だ。

MAKEBLOCKは深圳版エコシステム活用例、米系HAXと出会い開発支援受ける

深圳版エコシステムを活用したスタートアップ企業という点では本社見学したMAKEBLOCKも興味深い。ユニークなのは、子供たち向けにプログラミングが可能なロボットキットを数多く開発、いずれはロボット工学にも関心を持ってもらおうと世界中の学校など教育機関を通じ450万人のユーザーを確保した点だ。2012年の創業当初からDJIと同様、海外市場先行で、現在、日本を含めた海外諸国での売上高が全体の70%を占める。ユニコーン企業ではないが、優れもの企業だ。

MAKEBLOCKの場合、深圳でスタートアップ企業を支援するアクセラレーターの米国企業HAXとの出会いが大きかった。HAXはシリコンバレーを本拠にしながらも、深圳がハードウエア、ソフトウエアのイノベーションセンターであることに着目、冒頭の華強北地区に拠点を持ち、ネット上で半年に1回、スタートアップをめざす企業を世界中から募集、15社を選んで深圳のメイカーズフェアなどの広場に集めて特訓、優秀企業を世界最大のクラウドファンディングのサイトKICKSTARTERに仲介している。

MAKEBLOCKはその優等生で、大手セコイアキャピタルから出資を得て製品化に成功した。500人社員の半数が開発にかかわり、生産面では深圳版エコシステムに依存する。

深圳にTENCENT、HUAWEI、MAKEBLOCK、BYDなど目白押し、海亀組が起業も

DJI、MAKEBLOCK以外にも深圳には、ハイテク企業を中心にイノベーション力のある企業が目白押しだ。具体的には米FACEBOOK中国版のTENCENT(テンセント)、通信機器メーカーのHUAWEI(ファーウエイ)、電気自動車生産で急成長のBYD、0.01ミリの薄さの開発素材メーカーのROYOLE、3DセンサーカメラメーカーのORBECなどだ。

中でもTENCENTやHUAWEIなどデジタル社会化を背景に急成長した大企業は、スタートアップ企業に人材や資金を提供、場合によってM&Aも行い自らの事業領域の拡大につなげるなど、スタートアップ企業との間でWIN・WINの相乗効果を生み出している。

興味深いのは、ROYOLEやORBECの創業者が、いずれも深圳地方政府の海外人材招致の孔雀計画によって中国に帰国した海亀組の若手中国人エリートたちであることだ。彼ら海亀組は、米国などの大学で「旗揚げ」する考えで母国を後にしたはず。しかし深圳でのイノベーションチャンスに魅力を感じたのか、孔雀計画に呼応し、帰国から数年とたたないうちに起業し、メガベンチャー企業になっているのだからすごい話だ。

最後に、中国政府が進めつつある深圳を含む広東珠海地域と香港、マカオの2つの特別行政区をつなぐ「大湾岸経済圏」構想にも言及しておきたい。現在、これら3地域を結ぶ海底トンネルと大きな橋による「香港・珠海・マカオ大橋」が出来つつある。北京中央政府にとってはイノベーションセンターとなりつつある深圳を軸に、新たな経済圏を構築して成長センターにしたいのは間違いない。その意味でも深圳ウオッチが必要だ。次号の最終レポートでは、日本は深圳の動きから何を学び取るべきか、ぜひ問題提起したい。

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