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[時代刺激人]人生100年時代に向け試練の挑戦、高齢の団塊世代がカギ、アクティブに動け!<牧野義司>

<時代刺激人コラム>第296回 2017年9月39日 ジャーナリスト 牧野 義司

「すごい人がいるものだな」と、きっと誰もが思う話から始めさせていただこう。私の母校、早稲田大学の元総長の西原春夫先生がその人だ。刑法学の専門家だが、最近、私が関係する国際アジア共同体学会会合で特別講演され、北朝鮮問題や中国の南シナ海での海洋覇権問題など緊張関係が続く東アジア地域には国際法が機能する枠組みづくりが必要で、その具体化のためプラットフォームづくりに今、取り組んでいる、と熱弁を振るわれた。

89歳の西原早大元総長「60歳は人生マラソンレースの折り返し点」発想がすごい
この取り組み自体、極めて重要なことだ。しかし、私が「すごい」と思った理由は別にある。学会終了後の懇談会の場で、西原先生は「私は現在、89歳です。みなさんは、私の年齢でまだアクティブに動いていることに驚かれるかもしれない。でも、大事なのは、志をしっかり持ち、その志の実現に向け多くの仲間と行動に移すことだ」と述べ、次のように締めくくられたので、その場にいた多くの人たちは感激して思わず拍手した。

「人生をマラソンレースにたとえれば、日本の企業社会で定年と一般的にいわれる60歳の年齢は、人生の折り返し点に過ぎない。そこから新たな後半生に向けゼロスタートとなる、といった発想で意欲的に行動することが必要だ。私の89歳は、そのスタート地点から数えると、今は29歳となり、後半の実社会で本格的に動き出す年齢だ。私も引き続きがんばるので、みなさんも人生100年社会という位置づけでもって時代をとらえ、現代日本の高齢社会が抱える課題、あるいは世界の課題に取り組んでいただきたい」と。

生涯現役ジャーナリスト志向の私も思わず脱帽する問題意識やスケールの大きさ
私も70歳を過ぎてしばらくたつ今、生涯現役の経済ジャーナリストを意識し現場取材を続けて情報発信に取り組んでいるが、私と違って、問題意識や取り組みのスケールの大きさ、すごさには思わず脱帽だ。西原先生の話に強い感動をおぼえた私は、その懇親会場で直接、日常生活をうかがった。すると東アジアに国際法が機能するプラットフォームづくりのため、中国政府に参画してもらうことが重要と、中国を時々、訪問されるという。

そのバイタリズムに驚いたが、さらに驚いたのは、外出時にいまだに、自ら自動車を運転されていることだ。さすがに、私は「最近、高齢者ドライバーの事故が目立ちます。自分は絶対に大丈夫という過信が思わぬ事故につながっていますので、ご注意を」と申し上げたら、西原先生は「過信は禁物。その点は、十分に注意している」ということだった。それにしても、この行動力はとても89歳とは思えない。

「18歳と81歳の違い」事例が興味深いが、81歳イメージを変革できるかが焦点
本題に入る前に、私の知り合いの野村證券OBの高梨勝也さんが、ある友人から披露されたという「18歳と81歳の違い」の事例がなかなか興味深い。というか、私は思わず抱腹絶倒してしまった。ここにご紹介する81歳は、西原先生とは違った、まさにこれこそが今の現実かもしれない。今後、人生100年社会を考えた場合、これら81歳の人たちの意識改革がどうできるかどうかだが、まずは、そのいくつかをご紹介しよう。

「人生につまずくのが18歳、小石につまずくのが81歳」「高速道路を暴走するのが18歳、逆走するのが81歳」「心が脆(もろ)いのが18歳、骨が脆いのが81歳」「まだ何も知らないのが18歳、何も憶えていないのが81歳」「自分探しの旅をしているのが18歳、出かけたままわからなくなるのが81歳」。興味深い話は続く。「愛しているって聞くのが18歳、息しているって聞かれるのが81歳」「アメをかみ、砕けるのが18歳、アメをかみ、歯が砕けるのが81歳」「自動車運転免許とるのが18歳、返納するのが81歳」

確かに、81歳の高齢者の姿をうまく浮き彫りにしている。でも、西原先生からすれば、「他人から、そのように見られて恥ずかしくないか。もっとメリハリのある人生を過ごせ」という反論が返ってくるかもしれない。

超高齢社会スタートの2025年が最大危機、800万人団塊世代が75歳に到達
ここからが本題だ。西原先生が問題提起されたことに関して、100%同感だ。それを踏まえて、今後の日本の高齢社会を見た場合、日本は今後、高齢化の「化」がとれ、高齢者の数が人口面で次第に大きな比重を占める高齢社会に陥る。とくに戦後日本の高度成長経済の担い手だった団塊の世代(1947~49年生まれ)という巨大な人口の塊が2025年に75歳超の年齢層に達する。いわゆる「2025年問題」だ。国民の4人に1人が75歳以上となる見通しだが、65歳以上の人口で言えば国民の3人に1人。文字どおり「超」高齢社会だ。中でも団塊世代層は800万人に及ぶ、というから重大事態だ。

ところが日本政府や自治体、企業は、こういった時代が訪れることを早くから予見していながら、それに見合った制度設計、社会システムづくり、財政負担対策、さらには医療や介護の現場がこの人口の巨大な塊によって大きな負担を強いられることに対応するシステムづくりに関しては、十分とは言えない状況にある。その点で、今後の政策課題を見渡すと、課題山積だ。とりわけ超高齢社会が定着し始める中で、団塊の世代という人口の巨大な塊の人たちの対策だ。

英グラットン教授の「100年時代の人生戦略」はまるで日本への制度設計アドバイス
そういった点でも、西原先生の問題提起は重要だ。医療技術の発達によって、日本では健康寿命が大きく伸び、人生100年時代が現実味を帯びてきた。60歳定年後はのんびり人生と考えたら大間違い。60歳から最長40年間という長い老後人生が待ち受けていて、年金、老後対策にと貯めた資金だけでは十分と言えなくなる。となれば、団塊の世代はアクティブシニアとして、社会のお荷物とならないように、自身で仕事対策を練ることが重要になる。老老介護はじめ、さまざまな問題をかかえて身動きがとれない人もおられるだろうから、すべての人に共通する話ではないが、長い老後が来ることだけは確実だ。

この状況を想定して、まるで日本の将来設計を書いたのでないかと思う本がある。すでに話題になっており、お読みになった方々も多いかもしれないが、英国ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授が書いた「100年時代の人生戦略」(東洋経済新報社刊)がそれだ。ぜひ読まれたらいい。
グラットン教授によると、これまでは、20歳までが学びという名の教育時期、60歳までが生産労働力としてさまざまな仕事に携わる時期、それ以降は、いわゆる退職、引退によって老後を楽しむ時期という3段階構造の人生設計が主要国で一般的だった。しかし今やそれは時代遅れになっている。引退によって豊かな老後をエンジョイするのも重要な選択肢だが、むしろ自身で新たなスキルを学んでそれを活用、あるいはこれまでとは全く異なるワークスタイルで仕事をしてみるとか、要は長寿社会になることを前提にマルチステージ、つまり多段階構造の人生設計をたてることが必要だ、というものだ。

団塊の世代を軸にした超高齢社会のシステムづくりが出来ていないのが大問題
日本は、世界でも人口の高齢化スピードが最も早く、その一方で国民皆保険制度や医療保険制度、介護システムなど世界の先進モデル事例になる要素を持っている。それだけに、日本が、それら精度に磨きをかけ、「課題先進国」として課題解決の先進モデル事例をどんどん出していけば、間違いなく世界で大きな存在感を示すことができる。
ところが日本は、歴史という長い時間をかけて、人口の高齢化に対応した制度設計、さらに社会システムづくりをしてきたはずだが、ここ10年以上、団塊の世代の高齢化への対応が遅れ、成熟社会、超高齢社会に見合ったシステム設計が後手後手になっている。

日本を学びの対象にすべき中国やタイなどの国々は、日本と違った形で人口の高齢化に今、苦しみ始めている。経済成長に弾みがつき、中進国からもう一段の高みの先進国への道を歩むところまで来た段階で、人口の高齢化スピードが速まり、医療費や介護、年金への財政負担が必要になり、経済成長の果実をそちらに回さざるを得ないためだ。あおりで「中進国の罠」という政策ジレンマに陥った。日本は戦後間もない時期の制度設計がうまくいき、新興国がいま抱える問題をすでに克服したが、先を進む「先進国」としてアドバイスできる立場にあるはずの日本自身が今、超高齢社会問題に苦しんでいるから皮肉だ。

人生年齢は8掛けで発想転換、「健康寿命より就労寿命を伸ばせ」の発想も重要
ここまでは総論の話だ。問題は、800万人に及ぶ団塊の世代を、どうやってアクティブシニアとして、社会で活動してもらうかが最重要課題だ。そこで、私はまず発想の転換が必要で、「人生年齢」に関しては8掛けで、プラス思考で対応したらいい、と考えている。それでいくと、まだ56歳前後という計算で、まだまだアクティブに動ける。
それともう1つ。私は、健康寿命という言葉の使い方に、どこか抵抗があって、働くことに生きがいや意欲を持つことが結果的に健康につながるという意味で、健康寿命に代わる「働く元気寿命」のような言葉にすればいい、と思っていた。そうしたら同じような発想をされる方がおられた。医師の石蔵文信さんが「健康寿命よりも就労寿命を」という形で同じような問題提起をされているので、うれしくなった。この言葉もポイントだ。

老老介護などさまざまな問題を抱える人たちもおられるので、すべてに当てはめるつもりはないが、病院治療や介護に頼らず、健康体で、しかも企業などの現場で培った知見や技術をうまく生かしてアクティブに面白くかつ楽しくなる仕事をし、それによって「俺たちは時代のお荷物ではない。介護などで税金をもらうどころか、担税力を持っていて支払う側にある。見損なうな」と啖呵を切ってもらう元気ぶりを発揮してほしいのだ。

大企業OBと中堅・中小企業の人材マッチング「新現役交流サポートの会」が面白い
そんな問題意識でいたら、最近、うれしい取り組みを知った。一般社団法人「新現役交流サポートの会」という会だ。大企業などを定年退職したあと、現役時代に培ったせっかくの経験やノウハウをうまく活かしれないままでいる人たち、一方で、さまざまな人材を必要としているのに人脈ネットワークがなく、ビジネスチャンスも失うといった中堅・中小企業の人たちをうまくマッチングしていこう、という取り組みだ。生保OBの保田邦雄さん、経産省・ジェトロOBの友人、塚本弘さんらが問題意識旺盛に動いている。
友人の共同通信OBの経済ジャーナリスト、中西享さんから「ぜひ取材したらいい」とアドバイスを受け、最近、東京都内の6つの信用組合と「新現役交流サポートの会」が共催した人材マッチングの現場に参加し大企業などのOBの新現役の人たちに話を聞いた。

結論から先に申し上げれば、なかなか活気があって、よかった。中堅・中小企業の側は、技術経営面でアドバイスをしてもらえる人材ニーズが非常に強く、また「新現役交流サポートの会」に人材登録した新現役人たちも、フルタイムでなくても自らの経験やノウハウの活用先を、と探し求め互いのニーズが合っていた。これまで政府はハローワークやシルバー人材センターでマッチング対応していたが、システム設計が十分でなく不評だっただけに、それに代わること間違いなしだ。ぜひ「新現役交流サポートの会」を応援したい。

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