[異なる視点論点] 「習近平の思想」は「習近平思想」ではない 2017.8.22 <朱建榮>
  • 2017.8.25

東洋学園大学 朱建栄

5年に一度の中国政治の最大のイベント、第19回党大会は今年10月後半か11月前半に開かれることになっている。今は、最高首脳部に当たる党中央政治局常務委員会の7人枠をめぐって、誰が残り、誰が抜擢されるか、熾烈な駆け引きが行われている最中だ。ただ一つはっきりしているのは、指導部内における習近平主席の「核心」の地位はもはや不動のものになっており、これについて疑問を挟む余地はない。

各国のマスコミの最大の関心事は、2012年秋にトップに就任した習近平主席は今大会で2期目を務めた後、2022年以降の3期目もあるかどうか、に移っている。それを占う動向の一つは、今回の党大会で採択される新しい党規約に、「習近平」についてどのように位置づけられるか、である。

日本の新聞はそれに関してほとんど、「習近平思想」が19回党大会で党規約に盛り込まれるのが必至で、これで習近平氏は「毛沢東に並ぶ地位を得る」との趣旨で報道し、解説している。

たとえば7月20日付『日本経済新聞』朝刊に掲載された、「『習近平思想』前面に 一強体制へ権威強化 中国共産党メディアが相次ぎ言及」と題する記事は次のように書いている。

中国共産党系メディアが習近平総書記(国家主席)の政治思想を「習近平思想」という表現で前面に打ち出し始めた。秋に予定する5年に1度の党大会で党規約に書き込む準備とみられる。中国の指導者の名前を冠した「思想」が党規約に盛り込まれれば毛沢東氏以来となる。「一強体制」に向けた権威強化を一段と進める狙いがうかがえる。

 7月27日付『毎日新聞』の「『習近平思想』の深慮2017年」と題する解説は、今秋に開催される中国共産党第19回党大会では人事と共に習近平国家主席の打ち出してきた「中国の夢」などの理論をどんな形で党規約に盛り込むかが焦点だ。毛沢東思想に並ぶ「習近平思想」が打ち出されるとの観測もある。

と述べている。

8月14日付『産経新聞』の朝刊には、「『習近平思想』党規約入りへ着々 毛沢東超え、マルクス、レーニンに並ぶ『習主義』案も浮上」と題する記事が掲載。その中で、

今秋に開かれる中国共産党大会で、習近平総書記(国家主席)の指導思想・理念が党規約において、毛沢東思想に匹敵する「習近平思想」として記載される可能性が高まっている。さらには毛沢東をも超越し、共産主義思想を生んだマルクスやレーニンに並ぶ「習近平主義」と呼称する案まで出ている。

と分析している。

ところで、8月5日付『朝日新聞』朝刊の記事は「毛沢東に並ぶ『習近平思想』? 中国高官、相次ぎ発言」との見出しで次のように解説した。

秋の党大会では、習氏の「思想」が「毛沢東思想」や「鄧小平理論」などと並ぶ党の指導思想として党規約に盛り込まれるかどうかが焦点となっており、注目される。

江沢民元総書記が唱えた「三つの代表」や胡錦濤前総書記の「科学的発展観」は指導思想として党規約に明記されているが、それぞれの名前はない。習氏の名前が入れば、毛沢東鄧小平に並ぶ権威付けとなる。さらに「理論」より格上とされる「思想」との表現なら、毛沢東と並ぶ最高指導者の位置づけとなる。

 これらの報道と解説は大きい方向を間違えていない。様々なルートで得た情報を総合して、習近平の「思想」が新しい党規約に盛り込まれる可能性が大きいことを伝えている。

ただ、ほとんどの記事や解説は、一つのニュアンス上の間違いを犯していることを指摘しなければならない。

結論から言えば、中国語では「習近平思想」と「習近平の○○思想」との間に、微妙だが大きな違いがあり、日本の報道ではそれがほとんど混同して使われている。実はそれによって情勢判断の間違いも、もたらしかねないのである。

「習近平思想」という表現なら、「毛沢東思想」という前例からもわかるように、その人物の有する、哲学・理念・政策・情勢分析などあらゆる方面を包括的に含む体系的な理論、思想を意味する。

しかし、習近平の「○○思想」となると、意味はかなり違ってくる。それには少なくとも以下のような二つの別のニュアンスある。

①それは包括的、体系的な思想を指すものではなく、「○○」という修飾語に限定された思想的内容を指すものである。

②したがって体系的・包括的といった「無限大」の思想ではなく、限定的な内容であり、「毛沢東思想」と同列するまでには至らない。

現時点で、中国の報道、指導幹部の講話にはその関連で、
「習近平の重要思想」
といった表現が主に使われている。

ごく一部の論説には、「習近平の〇〇思想」を述べた後、「習近平思想」と略称する場合もあるが、基本的には「習近平の〇〇思想」とのレトリックで使われていることは明白だ。

たとえば、8月初め、上海では「習近平総書記の外交思想」に関するシンポジウムが行われた、との報道がある。

上海國際問題研究院舉辦“習近平總書記外交思想和中國特色大國外交研討會”

http://web.shobserver.com/wx/detail.do?id=61931&time=1502679428080&from=groupmessage&isappinstalled=0

海外のマスコミが「習近平の○○思想」と「習近平思想」を混同して使っていることについて、まず北京在住の中国人研究者は気付いたようで、その一人は在米の中文サイト「多維網」の論壇に、その相違に対する注意を提起する記事を書いた。

“習近平重要思想”不等於“習近平思想”多維客170816

http://blog.dwnews.com/post-967567.html

その主旨は以下の通り。

①の二つの表現には「中身とニュアンスは完全に異なっている」が、混同されている。

我看很多人都將這兩者混同起來,認為“習近平重要思想”就是“習近平思想”,這是不對的,這兩個說法具有完全不同的內涵和外延。

②19回党大会で「習近平の重要思想」が提示されることは自然の成り行きだ。一元的な権威主義政党である中国共産党にとって必要であり、これまでも提示されてきた。しかし「習近平思想」という表現が使われるとすれば、中国共産党の「政治的倫理」にあまり合わない。

如果十九大提出“習近平重要思想”,我覺得是可以理解的,對於中共這樣一元體制的威權主義政黨來說,也是必要的,是符合慣例的。但是如果直接用“習近平思想”,我在之前就已經專門撰文說過,此舉似乎並不為妥,也不太符合中共的政治倫理。

③習近平氏は確かにこの5年間、一連の新思想、新観念、新戦略を打ち出し、初歩的に完全な論述体系を形成したが、その内在的体系性に関して言えば、「毛沢東思想」との間にまだ一定の距離がある。

習近平上任以來確實在治國理政的各個領域都提出了很多新思想,新觀念,新戰略,而且已經形成了初步完整的論述體系,也指導了中共這五年的政治實踐。但是就其內容結構的內在系統性來說,和毛思想還有一定距離,還比較模糊,有賴於在之後的實踐中繼續檢驗。毛思想和鄧理論,其內部結構是非常清晰的,也是經過多年革命和建設實踐檢驗的。

④「習近平の重要思想」が今後、「習近平思想」に昇格できるか否かは、今後の成り行き次第だ。

“習近平重要思想”以後能不能繼續升級成為“習近平思想”,我認為那是以後的事。

続いて、米国議会が資金援助している「自由アジア放送」のHPに、「党規約改正に使われる表現は『習近平の治国理政の思想』になる可能性が高い」との中国人学者の解説が掲載された。

習思想將入新黨章 全稱“習近平治國理政思想”RFA170817

http://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/zhengzhi/ql2-08172017114047.html

その中で、北京の学者査建国氏の分析を引用する形で、「習近平の治国理政の思想」という表現が新しい党規約に盛り込まれる可能性が最も高く、この春から、党の機関誌にすでにこれについて体系的な紹介・解説が行われているのが根拠、としている。

據知情人士披露,“習近平治國理政思想“將作為中共黨內重要戰略思想,在十九大寫入黨章。北京學者查建國接受自由亞洲電臺記者采訪時表示,十九大將提出修改黨章,已無懸念,只是一個如何表述問題。他說:“十九大上,習的名字一定會進黨章的。這既是中共修改黨章的慣例,也是維護習權威的需要。當然如何講,這個詞兒怎麽用,其他幾個人(江澤民、胡錦濤)會不會都保留,這個當然還要繼續觀察”。

今年2月,中共機關刊物《求是》雜誌下屬的《紅旗文稿》雜誌,發表名為“深刻理解習近平治國理政思想”的署名文章寫道,習近平的治國理政思想,是把馬克思主義基本原理同實現民族偉大復興相結合的產物,是馬克思主義中國化進程的新成果,標誌著中國共產黨在新的歷史條件下實現了政治上、思想上和組織上的又一次空前團結、統一與進步。追溯這一思想的形成脈絡,既離不開中國的歷史傳統、文化和時代發展背景,更離不開習近平非凡的成長經歷、獨特的人格魅力。

最後に、自分のコメントをつけておく。

1、「習近平」という現役指導者の名前が党規約に明記されることは、「三つの代表」と「科学的発展観」の表現が使われたが実名が党規約に盛り込まなかった江沢民、胡錦濤という両指導者の重みを超えた存在になっていることを意味する。

2、ただ、包括的な意味を持つ「毛沢東思想」と「鄧小平理論」に匹敵する「習近平思想」という表現が現時点で使われないことは、この両者とはまだ肩を並べるものではないとの位置づけを意味する。限定的修飾語「治国理政」をつけた「重要な指導思想」が使われることは5年後の党大会の更なる党規約改正に「習近平思想」への昇格のために伏線を作ったともいえるし、19回党大会以降、「習近平の時代」が本格的に到来することも意味する。

3、個人的な予測だが、すべて順調に、今の延長でいけば、5年後の第20回党大会では「三つの代表」と「科学的発展観」が言及されなくなり、この両者は併せて鄧小平氏の「中国特色ある社会主義理論」の中に収斂されるのではないか。そして「習近平思想」は本格的に「毛沢東思想」「鄧小平理論」に並ぶ中国共産党の第3の里程標になる。

4、しかし現時点では、様々な含みを持ちながらも、「習近平思想」という「頂上の思想」のニュアンスをもつ表現を保留している。これは、5年後の党大会を強く意識しながらも今は「到達点」ではなく、「中間段階」と位置付ける意識が貫かれていることを意味する。したがって、習近平氏は3選するかどうかも、含みを持ちつつ、今回の党大会では明確な規定は行われないであろう。

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